2023年5月27日の日記 甥っ子よ、ここが異世界です

 甥っ子と一緒にお昼寝をしていたら、異世界転生してしまった。俗に言うお昼寝転生である。


 転生先はポヨポヨしたモンスターがいる世界で、森の中を歩いていると、赤や黄色のビビッドな奴らは甥っ子を慕って集まってくる。


「かわいいねー、おばちゃん」


 馬の小さいのみたいな黄色いモンスターに懐かれていた甥っ子は、私を見上げてニコニコ笑った。甥っ子は常に機嫌がいいのでそれはいいのだが、モンスターに気を取られて私にまとわりついてこないので、この世界は当たりと見た。


 甥っ子に集まってきたモンスターたちと楽しく進んでいくと、森の出口が見えた。そこは粗末な木や石でできた家々の立ち並ぶ村だった。早速村人が一人、こちらに近づいてくる。長老らしいひげの長い白髪の老人だ。


「旅の人よ、モンスター退治に来てくれてありがとう。私たちはモンスターに畑を荒らされて困っていたのです」

「どうしたの?」


 甥っ子が不穏を察知して聞いた。甥っ子の「どうしたの?」は「どういうこと?」である。


「モンスターさんをやっつけなきゃいけないってことだよ」


 私が説明すると、甥っ子が私の横にピタッとくっついて、「○○ちゃんやだなあ」と言う。老人は更に続ける。


「さらに、魔王を倒せば勇者として末代まで讃えられることでしょう。さあ、これを」


 老人はでかい剣を差し出した。ルビーが嵌まった本当に切れそうな剣だ。甥っ子は、それを見てギャン泣きした。


「いや! ○○ちゃん魔王やっつけない!」

「そう申されましても」


 老人は眉を下げて困った顔をする。甥っ子は変わらず泣き続ける。


「モンスターもやっつけない! ○○ちゃんいや!」


 私は困り果て、甥っ子は戦ったり何かを倒したりすることにはまだ不向きなので、許しては貰えないだろうかとの旨を話した。老人は困っている。わらわらと村人まで集まってきた。


「モンスターを倒してくれないのか」

「それどころか連れてきてるじゃないか」

「役立たず勇者め」


 村人たちは私たちをののしる。私は困り果て、甥っ子と手を繋いで帰ろうとした。村人は更にヒソヒソ話し、甥っ子は更にギャン泣きする。


 ついにこう叫んだ。


「森の中帰らない! ○○ちゃんおうち帰るー!」


 気づけば家の居間にいた。甥っ子はお気に入りのブランケットを抱きしめて眠ったままで、私は硬い籐の枕の硬さで痛くて目が覚めたところだ。あれは夢? そう思っていたら、甥っ子が目を覚ました。ぱっちりと目を開き、私を見つめる。


「○○ちゃんお馬さんとか小鳥さんとかと遊んだの。楽しかったー」

「そうなの」

「それからおじちゃんからぴかぴか光る大きくて怖いのをくれたの。それから○○ちゃん泣いちゃったの」


 もしかしたら夢ではなく本当にお昼寝転生をしたのかもしれない。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る