2023年6月11日の日記 甥っ子よ、すごいですね

 甥っ子は雨が嫌いである。お外で遊べないからだ。雨が降るとシャボン玉をピストル型おもちゃでバンバンすることも、三輪車で走り回ることもできない。じいちゃんの趣味の部屋兼仕事部屋である離れに行って、トミカで遊ぶこともなくなる。


 甥っ子はざんざと雨の降る窓の外を眺め、


「雨やだなー」


 とつぶやいた。それからくるりと私を見て、


「おばちゃんは今日出かけない?」


 と聞く。私が出かけないと言うと、甥っ子はニコニコ笑う。嬉しさのあまり雨を操る。


「アンパン男は貴殿なりー」


 甥っ子が大好きなアニメ番組アンパン男のエンディングテーマ曲を歌い出す。雨が同時にリズミカルに鳴る。甥っ子の歌声に合わせているのだ。


「我が力のある限りー」


 雨の不規則なざんざんという音が、甥っ子の声に合わせて鳴り響く。


「アンパン男は貴殿なりー」


 見ると外の雨はレースのように揃って地面に落ちていく。幾重にも重なったカーテンのように。


「勇ましき力よ出でんー」


 私は唖然として外の風景を見る。雨がカーテンのように、甥っ子の歌声を響かせるべく列をなして平行に並んでやってくる。これは驚くべき奇跡だ。


「いざ煌めかん、貴殿は心優しき英雄なりー!」


 最後まで甥っ子が歌い切ると、雨は何事もなかったかのようにまたざんざと降る普段の雨に戻った。


「○○ちゃんすごいねー!」


 私が褒めると、甥っ子は心底不思議そうな顔をして、


「何が? それよりおばちゃん遊ぼうよ!」


 と笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る