第22話 宣戦布告
「もう一度問う。魔術王パルマコンの本名は?」
【天の滝】での一件で、不幸にも生き残ってしまった魔術師が、拘束されていた。両手を縛られ吊るされている。尋問を担当しているのはカサンドラだ。
「フッ、死んでも言わない」
「ではもう一本」
カサンドラの部下が、虜囚の肋骨を叩き折った。
囚われの魔術師が苦悶の声を上げる。
「四肢の指は一通り折ったというのに、さすがの忠誠心だな。感服するよ。これ以上は時間の無駄だな。殺せ」
「いいや」
魔術師は静かに否定した。
「死ぬのはお前だ」
直後、アルド帝国首都、ディクソスの教会は爆炎に包まれた。
◇
三日後。
俺がアルド帝国に入国すると、早速捕縛された。
エレノア殺害の件で疑われたのかと思ったが、そうでもないらしい。
「危険ですので、司教どのには帝都ディクソスからは出ないようお願いいたします」
衛兵からはそう告げられ、それなりの豪邸に軟禁された。
なんだ? 外で何が起きているんだ?
知る由もないが、ただならぬ気配を感じる。門は衛兵が見張っているし、外に繋がるあらゆる扉や窓が締め切られている。
「ほら、食事だ」
窓が少しだけ開き、盆に乗った食事が配給された。まるで監獄だな。
こうも動きを制限されると、同胞たちの安否が気になるところだ。
仕方なくシチューを啜ると、食器の底に石が入っていた。
「全く。普通混入しないだろ、こんなもの。いよいよ囚人らしい扱いになってきたな」
石を取り除くと、何か溝が彫られているのが分かった。
裏返すと、文字が刻まれていた。
【同胞が自爆。ラシド王国に宣戦布告】
魔術師団からの連絡だったか。連絡手段は事前に決めていないので、正直心臓に悪い。だが、衛兵にこちらのスパイが混じっているのであれば、脱出は簡単だろう。
内容自体はかなり省略された文言だが、言わんとすることは分かる。
おおかた、アルド帝国の教会で同胞の誰かが自爆テロを決行し、アルド帝国皇帝が激怒したのだろう。それで、テロリスト潜伏の疑いをかけてラシド王国に対する侵攻を決めた、といったところか。
空位が続いているラシド王国に侵攻するチャンスを、アルド帝国が狙っていなかったはずがない。テロリスト撃滅という大義名分を得られて、さぞ嬉しいことだろう。
そう。アルド帝国侵攻の大義名分は、テロリストたる俺たち魔術師団を潰すこと。
つまり、その魔術師団が戦場のど真ん中に現れてしまえば、ラシド王国本土には手を出せなくなる。もっとも、それらしい理由を後付けして王国本土に攻め入ってくる可能性もある。だがその一縷の望みに、賭ける価値はある。
俺たちは陰に潜み、教会を潰す隙を窺ってきた。だが今は、平和のために、表に出るしかない。
俺はすぐにでも脱出することに決めた。
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