第3話 【剣姫】エレノア

 とはいえ、他人の空似でしかないことは明白だ。レッドフォード女史がエレナ本人だとしても、10年間成長が止まっているとは考えられない。


 ここは落ち着こう。


「はじめまして。ゼスト・ダンヴェールといいます。その歳で審問官とは、かなり高位のスキルをお持ちのようで」


「エレノア・レッドフォードです。私のスキルに関して、詳細はお答えできかねます」


 当然か。


 スキルには様々なものがあるが、審問官にとっては、魔術師に対抗する切り札となるもの。身内とはいえ明かさないのが賢明だろう。


 実際、俺は身内のふりをした敵だしな。


「そうですか。敢えて訊くことはしませんが、あなたのスキルの巻き添えにされるのはごめんですよ?」


「ご心配なく。私は魔術師狩りにおいて、スキルを使ったことなど一度もありません」


 何だと?


 どんな武器を使ったのかは分からないが、魔術師相手に生身で渡り合っているのか。この小さな体でやってのけるとは、相当な手練れだな。


「では、使用武器は?」


「この長剣のみです」


 エレノアがマントを翻すと、ロングソードを腰に佩いているのが見えた。


 間違いない。


 こいつ、魔術師団内でも話題になっている異端審問官、【剣姫】だ。少女でありながら、卓越した剣技で同胞を何人も殺している。


 共同捜査ともなれば二人きりになるタイミングもある。その瞬間に事故を装って殺してしまうか?


 そうすれば我々魔術師団にとっても大きな戦果となる。


 四肢を奪って尋問するのもいい。最強の異端審問官、【黒鬼】ことカサンドラ・ステファノプロスに関する情報を引き出せるかもしれない。


 なんにせよ、これは好機だ。異端狩りどもに大打撃を与えるチャンス。


「国王暗殺事件の主犯特定は急務だ。互いに連携し合って捜査してくれ。以上だ」


 総大主教との面会が終わり、俺たち二人は外に出た。


「今回、魔術師団の連中は、聖句に似せた詠唱をトリガーに大魔術を発動させた。俺のように聖典をほぼ暗誦できていれば気付けるが、そうでなければ発動に気付くこともできない」


 実際、聖句を唱える礼拝など、四六時中行われている。その中から魔術発動の予兆を察知するのは難しい。


「ご心配なく。聖典なら全て諳んじておりますゆえ」


 マジか。異端審問官でこんなに勉強熱心な奴は初めて見たな。今まで会った連中はだいたいが戦闘狂だった。

 

 俺がわざわざついて行く意味がないように思える。

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