弾圧時代の魔術王
川崎俊介
第1話 復讐の始まり
「【汝が琴をかきなで、汝の妙なるわざをたたえ得るように、この穢れある喉の罪を除かせたまえ】」
俺が祈りの聖句を読み上げると、信徒たちは皆復唱する。
イントネーションから間の取り方まで、寸分違わぬ見事な朗唱だ。
国王陛下の謁見されるこの日のために、努力して来た甲斐があった。
我ながら、よく訓練してきたものだ。
俺ことゼスト・ダンヴェールは、このシグニフィカティウム第二教区を取り仕切る司教だ。国王陛下が聖地巡礼のため立ち寄られるとのことで、一週間前から仕込んできた。
今日は月次の礼拝が午後からあり、太陽神エアを讃える聖句を繰り返し唱えている。
否。
唱えているように見せかけている。
「【主が笛を鳴らし、私の妙なるわざをたたえ得るように、この穢れある現世の罪を贖いたまえ】」
二回目の朗唱から、信徒たちの唱える文句は変わっていた。
三回目の詠唱で、周囲の衛兵たちが異変に気付く。何やら耳打ちし合っている。
ここらが限界か。
「皆さん、聖句を間違えていますよ、正しくは……」
俺は間違いを指摘するふりをする。直後、信徒たちが一斉に唱える。
「天上式【セイクリッド・フレイム】」
教会前広場を中心に、巨大な白炎が立ち現れた。術者が敵と認識した者のみを燃やす魔術。合同で行う人数を増やせば増やすほど、詠唱を繰り返せば繰り返すほど、その威力は幾何級数的に増大する。
そして、教会の聖句に似せた詠唱で発動可能。
相当聖典に通じた者でなければ、この魔術の発動は阻止できない。
国王の暗殺には成功した。近衛騎士ともども、骨だけになっている。
広場は阿鼻叫喚の地獄と化した。
あぁ。そういえば、教会は地獄の存在を認めていないんだっけか。
ならば俺がここに作ってやろう。
神の信徒を名乗る偽善者どもを、罰するための地獄を。
かつてエレナを焼いた、殺戮者どもの堕ちるべき場所を。
地獄は地の下などではなく、今まさにここにある。
そう。
俺ことゼスト・ダンヴェールは、教会に仇なす異端の首魁にして、魔術師の長、魔術王だ。
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