第17話 獣人の過去

「もっとよく探せば見つかるかもしれない。奴らは隠れるのがうまいからな」


 俺も引き続き、ミスリードを続ける。


 そんな時だった。


 鋭い殺気を感じた。


 まるで獰猛な猛獣に睨まれているような気分だ。


「なんでしょうね、この気配?」


「お前も感じるか。人間ではなさそうだな」


 エレノアは剣の柄に手をかける。俺も周囲を警戒するが、気配の主は確認できない。


 数瞬の緊張が続いたのち、鳥がはばたくような音が聞こえた。


「上か!」


 見上げると、巨大な怪鳥が上空を旋回していた。影が差したら分かっただろう。が、太陽光がそもそも射していないので分からなかった。そしてこの鳥、ただデカいだけではない。


「人の顔……?」


 人面鳥だ。


「こんな生物がいたなんて、聞いたこともありませんでした」


「俺もだ」


 神話や聖典にもこんな化け物は登場しない。なんなんだ、こいつは?


「ここには私以外誰もいない。トゥーロー家、アイレスフォード家、ステファノプロス家……かつてこの地に暮らした名家は皆、滅ぶかこの地を去った。今残っている者など、イーゼルベルク家の末裔たる私のみよ」


 驚くべきことに、人語まで話せるらしい。そして今、ステファノプロスと言ったか? カサンドラ・ステファノプロスと何か関係あるのか?


「あんた、エステラの住民の末裔か?」


「その通りだ」


「ではここに、魔術師が住み着いてはいませんか? 私は陽光教会の異端審問官です。捜査にご協力頂きたい」


 エレノアが丁重に問う。


「そんな輩は侵入してきていない。私は常に空から見張っているので分かる」


 そう答え、人面鳥は着地した。


「ここは貴殿らのような聖職者が立ち入る場所ではない。すぐに立ち去られた方がよい」


「ご忠告痛み入ります。捜索が終わればすぐにでも」


「そうも言っていられないようだぞ」


 俺は周りを見渡して言う。


 いつの間に囲まれていた。


 10人以上はいる。いや、10体と言った方がいいか?


 狼の獣人のように見える。中には四つ足で立っている者もいる。


「それ見たことか。ここには理性を失い、血に飢えた獣人の成れの果てが跋扈している。今に食われるぞ」


 実際、獣人どもは涎を垂らし、唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。


「スキルによる変身か?」


 俺がそんな憶測を口にすると、人面鳥は嗤った。


「知らないのか。まぁ仕方ない。どんな歴史書にも載っていないからな。これは呪いだよ。我ら獣人の祖先はかつて、エステラで天罰を受け、獣の姿に変えられたのだ。その子孫たる私たちにまで、呪いは受け継がれている」


 そんな過去があったのか。獣人はかつて差別され、虐げられてきた。だが、誰もその理由を知らない。


 そんな獣人たちを救ったのがルーライだとされている。おかげで、今では獣人国ローデシアは信仰熱心なことで知られている。


「ステファノプロス家はうまくやったよ。ルーライに取り入り、条件付きで人権まで取り戻した。呪われた家系でありながら、スキル持ちまで輩出したと聞く。我らとは大違いだな」


 ステファノプロス家のスキル持ち……カサンドラのことか。


「皆内なる獣性に自我を侵食され、理性なき獣となってこの冥都に住み着いた。うまく生き残ったのはステファノプロス家くらいのものよ」


 人面鳥はそう言い捨てて飛び去った。

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