第16話 大戦乱
エレノアに続きエステラに入ると、人の気配は殆ど感じられなかった。もっと奥に住んでいるのだろうか。
にしても不気味な土地だ。太陽神エアの呪いを受け、ここだけ太陽光が当たらなくなっているのだから。何かの影になっているというわけでもない。太陽光がこの土地だけ避けるようにして射しているのだ。
見上げると、真っ黒な太陽が浮かんでいた。なんとも奇怪な光景だ。
聖典には、エステラの民は太陽神を『冒涜した』としか書かれていない。一体どんな冒涜をしたのか、具体的なことは一切不明だ。
そんなことで天罰が下るのなら、教会に仇なす俺たちは真っ先に焼き殺されていそうなものだ。なのにそうなっていない。
神の気まぐれか、あるいは神など存在しないということなのか……分からない。
「陰気でジメジメしたところだな。一体どんな大罪を犯して、こんな罰を受けたのだろうな?」
「教会成立以前の話ですからね。もう詳しいことは分からないのでしょう。教会成立前は、大戦乱の時代でしたし」
大戦乱。教会成立以前の、諸国が覇を競い合った群雄割拠の時代。幾人もの王が乱立し、魔術をはじめとしたあらゆる技術を駆使して戦争が行われた。法律は機能せず、世界は略奪、殺人をはじめとしたあらゆる蛮行が蔓延る無法地帯と化していたそうだ。
そんな乱世を、スキルの力を使って鎮めたのが使徒ルーライだ。超常の力を使って戦争を収め、堕落した人類を罰するため大洪水を起こそうとした太陽神エアを諫めたらしい。その後、人類に博愛の教えを説くため教会を造ったという。
どこまで真実かは分からない。
だが、開祖ルーライから続く陽光教会の存在が世界平和に貢献しているのは確かだ。
「確かにそうだな。大戦乱の時ですら、人々はエステラに立ち入ろうとしなかったと聞いている。ここだけ時代に取り残されているんだろうな」
「そうですね、例えば……ほら、大戦乱以前の遺物です」
エレノアは、廃墟の壁にめり込んだ金属塊を指差した。よほどの威力で壁に衝突したのか、ひしゃげている。
「これは?」
「銃弾です。この鉛の弾丸を、一秒間に36発発射できる兵器が存在したとか」
「それは恐ろしいな」
現代においては、火縄銃しか使われていない。そんな連射ができる銃など、もう世界のどこにも存在しない。ロストテクノロジーというやつだな。
「こんなもので撃ち合いをしていたとは、大昔から治安が悪かったというわけですね。今でも残っていたりして」
「それは困るな。そんな古代兵器を持ち出されては、いくらお前でも太刀打ちできないだろう」
「でしょうね」
エレノアは短く返し、ずんずん奥へと進んでいく。
「おかしいですね。魔術師団の本拠地があるなら、ここらへんだと思ったのですが。気配すら感じません」
そりゃあそうだろ。ここにアジトはないんだからな。
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