第18話 テオンヴィル

 同時に、狼の獣人たちが一斉に飛びかかってくる。


 エレノアは剣を抜き、躊躇なく斬り捨てていく。


 だが俺は、今の話を聞いてしまっては、なかなか踏み切れない。


「とりあえず逃げますよ!」


 おずおずしている俺を見かねたのか、エレノアは俺の手を引っ張り入口へと走り出した。


「どういうことだ? エステラにいくら人が寄り付かないからって、こんな重大事実が今まで知られていなかったのか?」


「私だって初耳ですよ。しかも、エステラの獣人があんなペラペラと秘められた歴史を語るとは思えません。何かがおかしい」


 確かに。


 ということはまさか。


「我らは自我を失わないため、人間を喰い続けるしかないのでね」


 急旋回した人面鳥に回り込まれた。


 やっぱそういうことか。


 興味本位でここに足を踏み入れた者は、例外なく獣人の餌になったというわけか。


「スキル【神の衣】」


 俺は小声でつぶやき、スキルを発動する。魔術の方が小回りは利くのだが、審問官の前で使えるはずもない。


 敵は熱波に焼き殺されるはずだったが、平然としている。


「な……」


 呆気に取られていると、俺に迫ってきた怪鳥の爪を、エレノアが削ぎ落とした。


「ボケっとしないでください! 死にたいんですか!」


 エレノアは後方から迫る獣人も牽制しつつ、さらに人面鳥に斬撃を加え、両翼を斬り落とした。さすがの早業だな。


「すまない。油断した」


 スキルが不発に終わった。どういうことだ?


 いや、俺のスキルは太陽神エアに由来するもの。エアに呪われた地だから、エアの加護も受けられないというわけか。


 厄介だな。


「早くここを抜けましょう! エステラの影の範囲内から脱してしまえば、追ってこられないはずです!」


「そうだな」


 人面鳥の脇をすり抜け、俺たちは一斉に駆け出す。だが、走っても走っても出口が見えない。そこまで深くは入り込んでいないはずだなのに。周囲の風景にも違和感がある。


 まさか。


「奥に向かって走っている?」


「な、そんなことが……」


 だがありえる話だ。エステラに目印になるような建物はないし、そもそも薄暗い。方向を見誤ってもおかしくはない。


「ハハハ、もはや袋の鼠ですねぇ、おとなしく食われてはいかがかな?」


 人面鳥の傷はもう回復していた。さすがに獣人はタフだな。


「うるさい」


 その時、地の底まで響き渡るような大声がした。威厳のある重低音。これも獣人の声か?


「ハッ、テオンヴィル様!」


 次の瞬間には、人面鳥は剛爪に引き裂かれていた。狼の獣人たちも、恐れをなして退散していく。

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