第6話 どこへ逃れ得よう

 レイカは、同胞の中でもトップクラスの魔力量を誇る魔女だ。俺とは別行動することが殆どだったが、信頼できるので、権限委譲もしている。


【天の滝】襲撃計画についても、彼女に一任していた。ついにタイミングを決めたか。


 俺のフォローは必要ないだろう。【天上式】もいくつか教え込んであるしな。


「ほら、着きましたよ。帝都ディクソスです」


「あぁ、分かってる」


 俺はというと、この【剣姫】の目を【天の滝】から逸らすことくらいしかできない。今から理由をつけて駆け付けることもできなくはないが、怪しまれるしな。


 それから俺たちは近衛騎士団の詰所を捜索したが、当然何も出なかった。


「ハズレですか」


「そのようだな」


 エレノアは首を傾げている。推理力のなさに自覚はないらしい。


「じゃ、ここで解散ってことで。宿に戻ろう」


 エレノアはそんな俺の提案に従い、宿の自室へ戻っていった。

                ◇

 明朝。


 ついに第二のテロの決行が迫ってきた。レイカを信頼はしているが、やはり不安だ。


 俺は思わずベッドを抜け出し、外へ出た。


「早いですね」


 振り返ると、エレノアもいた。もう寝間着から法衣に着替えている。


「私はちょっとした野暮用ができましたので、これから【天の滝】に向かいます」


 なんだと?


【天の滝】と言ったか。


 このタイミングで聖地を訪れるとは、やはり俺たちの行動はバレているのだろうか。


「そうか」


 などと逡巡しながらも、俺は無難に返事をした。


「では」


 そう言った瞬間、エレノアの身体は消えていた。


 転移魔術?


 いや、教会の人間が魔術を使うはずがない。スキルか。


 なんにせよ、レイカが危ない。【剣姫】とぶつかって勝てるほどの実力は、今のレイカにはない。


 俺は宿で手続すると、即座に転移魔術を使用し、【天の滝】へ飛んだ。もちろん、仮面をかぶって、服装も変えて、だ。


「わが主。どうしてここへ?」


 見ると、教会支部の前に信徒を装ったレイカがいた。支部は既に半壊している。


 テロは成功か。


 杞憂だったな。


「いや、教会内部で気になる動きがあったんでな。心配になって見に来た」


「それでしたら、問題ありません。ここの教会支部は完全に潰しました」


 辺りは水浸しだった。レイカは水属性に特化した魔女。洪水を起こすことも容易い。


 ほっと胸をなで下ろした、その時だった。


【主の御霊から離れて、どこへ行けよう。主の御前を離れて、どこへ逃れ得よう。天上にも、冥界にも主はおられる。汝が暁の翼を駆って、海の果てに住んでも、主の御手が汝を裁くであろう】


 聖句の詠唱が徐々に近づいてくる。


 間違いない。これはエレノアの声だ。


 やはり、勘づかれていたのか?

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