第13話 神に縋る愚者
「エレノア・レッドフォード女史は、聖地ルーラオムへ向かった。ゼストどのも向かうように」
総大主教は、シグニフィカティウムに戻った俺に対して、そんな衝撃的なことを言った。
エレノアは死んだはずだ。本体は火だるまになって滝に転落したし、レイカに憑依した方も剣を突き刺して自死したはず。
なぜ生きていることになっている?
俺の知らないスキルでも発動されていたのか?
しかし、カサンドラは確かに『エレノアの死体を持ち帰りましょう』といった旨の発言をしていたはず。エレノアの死体を認識できていないわけではない。
ならば、記憶の改竄? いや、だとしたらなぜ俺だけが対象外なのだ?
分からないことだらけだ。
「どうされた? ゼストどの? 天の滝で多くの死体を見た程度で、ショックを受けるような性格でもなかろう」
総大主教は無表情のまま、そんな嫌味を言ってくる。
どうでもいい。教会上層部に性根の腐った連中しかいないことは、嫌というほど思い知っている。
そんなことより、未知数の実力を秘めたエレノアのスキルの正体の方が気になる。早く向かおう。
「いえ、少し考え事を。聖地ルーラオムのあるアルド帝国入国にあたっては、レッドフォード女史の人脈のおかげでスムーズに手続きが済みました。ですが今回は先行されたということで、時間がかかるかと」
「そうか。それは致し方あるまい」
そんな言い訳を即興で吐き、俺は道中の魔術師団アジトへ寄る時間を作った。
しかし、総大主教座を出て、シグニフィカティウム第二教区へと踏み入ると、不安に顔を歪めた信者たちが走り寄ってきた。
老女から少年まで、必死の形相で押し寄せてくる。
「神父様! どうかこの混迷の世を渡る術をご教授ください」
「最近は聖地ばかりがテロの標的となり、世も末です。恐ろしくてなりません。どうか、救いの教えを説いてください!」
「施しを! 施しのパンをください!」
皆口々に俺に助けを求める。発言内容こそ違えど、俺をアテにしている乞食連中だという点に変わりはない。どいつもこいつも似たようなものだ。
神に縋るしか能のない愚か者どもが。相手をしているだけで虫唾が走る。
だが、連中の言葉に耳を傾けるのは、不思議と心地よくもあった。
自主自律を是とする我々魔術師団の人間的優位を、再確認できるからだ。
俺が適当な聖句を唱え、その解釈を伝えると、皆感心したように聞き入り、中には涙を流す者までいた。
本当に、バカバカしい。
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