第13話「天使と学校のマドンナ」

「氷坂さんの手作りケーキ!?」


 ケーキが入っているらしき箱を前にした姫花は、まるで餌を前にした仔犬のように表情を輝かす。

 その表情を見た吹雪は、数歩後ずさった。


「姫花ちゃん、食いつき具合がやばい……」

「まぁ、姫花だしな」


 そんな美玖たちの小言など耳に入らず、姫花は吹雪の手を見つめる。

 危険を察した吹雪は、ソッと机の上にケーキが入った箱を置いた。


「普段作らないから、おいしくないかもしれないわ」

「うぅん、凄く嬉しい! 私のために作ってきてくれたんだよね!?」

「まぁ、そんなところね……」

「……なんで、距離を取ってるの?」


 問答をしている間、吹雪はなぜか姫花から距離を取っていた。

 テーブルから離れたと思ったら、今は自分と姫花の対角線上に、莉音を入れるかのような位置にいる。

 それが姫花には気になった。


「気にしないで、なんでもないから」

「絶対何かあるよね!?」

「細かいことを気にする女は、嫌われるわよ?」

「うぐっ……!」


 直球的な言葉をぶつけられ、姫花は思わず胸を手で押さえる。

 そんな姉を見て、紫苑がムッとした表情を浮かべた。


「ねぇね、いじわるされてる……!」


 どうやら、吹雪が姫花をいじめていると思ったようだ。


「…………」


 吹雪は何を言うわけでもなく、無言で紫苑を見つめる。

 それによって、紫苑も見つめ返した。

 他の三人は、ハラハラとしながら、幼女と学校のマドンナを見つめている。


 すると――。


「この子、かわいいわね……」


 吹雪が膝をかがめて、顔の高さを紫苑の目線に合わせた。

 かわいいと言われた紫苑は、キョトンと首を傾げる。


「名前、なんていうの?」

「しおん」


「花咲さんの妹?」

「んっ、そう」


 質問に対し、コクコクと頷く紫苑。

 それが吹雪には刺さったようで、思わず手を伸ばしてきた。

 紫苑は逃げるかどうか一瞬考え、おとなしく頭を差し出した。


「なんで、そうなるの……?」


 険悪な雰囲気が一変し、嬉しそうに頭を撫でられる妹を見て、姫花は頭にハテナマークを浮かべた。

 そしてそれは、美玖と莉音も同じだ。


「氷坂、意外に子供好きなのか……」

「姫花ちゃんの妹ちゃんが、天使だからじゃない?」

「なるほどな……」


 なんだか、二人は変わった結論に至ったようだが、姫花は複雑な感情だった。


(氷坂さんに撫でられるなんて、羨ましすぎ……! でも、紫苑も凄くかわいいから、文句なんて言えない……!)


 姫花にとって紫苑は、目に入れても痛くないほどにかわいい妹だ。

 そんな妹の邪魔なんてできないし、吹雪の意外な一面が見られて嬉しいというのもある。

 ただ、羨ましくもあるので、なんともいえない気持ちになったのだ。

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花咲姫花は氷坂吹雪をオトしたい ネコクロ @Nekokuro2424

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