パーティーから追放された主人公が実は凄い力を持っていた……というのは追放もののお約束。本作もその例に漏れず、時間を操るという最強クラスの能力を隠し持っていたトキオが仲間から追放されるところから物語は始まる。
しかしこのトキオ、通常の追放ものの主人公とは少し違う点がある。彼の場合、追放された理由は能力面ではなく性格面。決して悪人というわけではない。ただ自分を追放した元パーティーがピンチになることを期待してこっそりストーキングしたり、最強の能力を持っているものだからついつい他人を見下したりと、なんというか性格の悪さが生々しいのだ……。
友達にはなりたくないけど、持っている力が強大なだけにこれぐらい増長するのも仕方がないと感じてしまうこの絶妙な嫌な奴っぷりが読んでいて楽しい。
トキオも自身の性格を自覚していて、自分を変えるために人助けをしようと頑張るのだが、彼の持つ時間停止能力も絶対無敵というわけではない。自分ひとりが生き残るだけなら何も問題はないけれど、他人を助けるとなると思わぬ苦戦が待ち構えている。
圧倒的に最強なはずなのに、性格の悪さも相まってなかなか上手くいかない新感覚な冒険譚をぜひ味わってほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)