第3話「困ったファンたち」
「――あ~、終わった終わった。帰りカラオケでも行かね?」
帰りのホームルームが終わると、帰り支度を済ませた莉音が姫花のもとにやって来た。
「いいね! 行こ行こ!」
そして、美玖も乗り気な様子で近寄ってくる。
しかし、姫花は――。
「ごめん、今日は帰るよ」
乗り気ではなかった。
「なんだぁ? まだ振られたことを気にしてるのか?」
「ちょっ!? そんな大きな声で言わないでよ!」
「いや、もうみんな知ってるし。お前、教室で大泣きしてたじゃないか」
昼休み、教室に戻ってくるなり号泣をしていた姫花を見て、クラスメイトたちは皆注目をしていた。
それにより、だいたい何があったのかを全員知っているのだ。
「そ、そんな……! 私の氷坂さんへ対する想いが、みんなにバレて……!?」
「うん、まぁ……おかげで、学校は軽くパニックだよ」
学校のアイドルと呼ばれている姫花の想い人が、まさかの学校のマドンナである吹雪だった。
姫花に想いを寄せていた男子を中心に、その衝撃は学校中に広がっている。
しかし、同時に振られたという情報も流れたので、傷心中の姫花に取り込もうと目を光らせている男子もいた。
「……まぁ、いっか」
「あれ? いいのか?」
てっきり姫花は羞恥心に悶えると思ったのに、ケロッとしているので莉音は意外そうにする。
そんな中、姫花は鞄を持って席を立った。
「別に、慌てることでもないし、知られて困ることでもないでしょ? それよりも、カラオケはごめんね。私、そういう気分じゃないから」
姫花はそう言って、莉音と美玖に手を振りながら教室を出て行った。
そして、家に帰ると――。
【至急募集。好きな人を全校生徒に知られた時の対処方法】
即座にパソコンを立ち上げると、黒髪ロングのウィッグとマスクを着け、動画サイトでライブ配信を始めた。
『何々? 花姫ちゃんがまた変なことを言い出した?』
『全校生徒に知られるとか、普通そんなことないでしょ』
すると、すぐに視聴数は百を超え、今もなお増え続けながらコメント欄が賑わい始めた。
実は、姫花は『花姫』という名前で活動している、動画配信者なのだ。
チャンネル登録数は四十万人ほどであり、ゲーム配信をメインとしている。
姫花が人気の理由は、学校とは別の一面がファンたちにウケているからだった。
「あるから相談してるんでしょ……! いいから出して! 案を出して! 私、明日から学校行けなくなっちゃうから!」
姫花は必死に視聴者たちへ案を求める。
そこには、学校のアイドルと呼ばれている姫花の姿はない。
いるのは、口が少々悪い、ファンからは『暴れん坊の姫』と呼ばれている姫花だ。
『全校生徒に知られたってことは、みんなの前で告白でもしたのか……』
『陰キャが無理して陽キャを演じるから、そうなる』
『無謀な挑戦を果たした結果だから、仕方ない』
「ちょっとあんたたち酷くない!? 私、これでも傷ついてるんだけど!? というか、告白しろって言ったのあんたたちだよね!? あと、みんなの前で告白はしてないから!」
辛辣なコメントが来たので、姫花は語尾を荒げる。
数日前、姫花が配信で、『女の子で好きな人がいる』と相談した時に、ノリでファンたちが『告白しろ』と言ったため、今回姫花は告白を決行したのだ。
それなのに、ファンが手の平返しとも取れるコメントを送ってきたので、怒ってしまった。
『人のせい、良くない』
『決断したのは花姫』
『これだから陰キャは』
「ほっほ~、あんたたちの気持ちはよ~くわかったわ」
次から次へと流れていくコメント欄を眺めていた姫花は、不敵な笑みを浮かべながらグッと握りこぶしを作る。
そして、机の上に置いてあったコントローラーを手に取った。
「配信内容変更! 今からスマメンをするから、かかってきなさい!」
スマメンは、大乱闘スマッシュメンバーズという、このゲームを出している会社のキャラたちを集めた、アイテム有の格闘ゲームだ。
姫花はよくこれで、ファンたちと対戦をしている。
『花姫がキレた!』
『相変わらず沸点が低い!』
姫花がゲームを立ち上げていると、コメント欄は盛り上がっていた。
ファンたちが姫花を弄り、それによって姫花がキレてファンたちと対戦するというのが、一種のお約束になっているのだ。
ちなみに、姫花はスマメンではアイテムなしで対戦をしている。
その後、次々とファンたちが挑んできたが――姫花は、一発も攻撃を喰らわないという神プレーで返り討ちにした。
【完敗です……¥500】
【相変わらず容赦がない¥500】
姫花がゲームを終えると、動画配信サイトの機能――スーパーチャットを使って、ファンたちがコメントと供に投げ銭をしてきた。
これはお金を払って送ることで、配信者にコメントを見てもらいやすくするものだ。
配信者からしても、お金を貰うと無視をしづらいため、コメントを読んでもらえることが多い。
だから、熱心なファンはお金を使ってスーパーチャット、略してスパチャを投げていた。
ただ、金額は投げる側が自由に設定できるのだが、姫花は高額なお金は投げてこないように呼び掛けている。
まだ学生なので、あまりお金を貰うと気が引けるのだ。
(ふふ、今回も投げ銭沢山♪ お小遣いいっぱいいっぱい♪)
しかし、やはりお金を貰えるのは嬉しいため、次から次へとスパチャが送られてきて姫花はご機嫌になっていた。
もう、ファンに弄られたことは忘れているほどだ。
――そんな中、一つの投げ銭が飛んでくる。
【お買い物して家帰ってきたら、ゲリラ配信されてた……。くっ、花姫ちゃんのライブ配信を見逃すなんて、一生の不覚……!¥5000】
それは、フブキというアカウントから送られてきたものだった。
それを見た姫花は、慌てて口を開く。
「ちょっと、フブキ君!? 毎回言ってるけど、高額スパチャは投げなくていいんだってば! もっとお金を大切にしようよ!」
このフブキというファンは、三年ほど前から――それこそ、姫花が動画配信者になったばかりで、ファンが数人しかいない時から見てくれている古参なファンだ。
しかし、今年に入ってから就職でもしたのか、今月の初めから毎回ライブ配信の度に高額スパチャを投げてきていた。
姫花が止めても辞めず、額はもう五万を超えていることだろう。
毎月配信の収益などで数十~数百万のお金が入ってくる姫花だが、ほとんどはお世話になっている保護者にあげているので、姫花にとって五千円は高いのだ。
【推しに止められようと、推すのが本当のファン!¥5000】
「こら、投げるなって言ってるでしょ! なんでそんな大金をポンポン投げられるの!?」
注意したら再度フブキがスパチャを投げてきたので、姫花は慌てて注意する。
こうなると、一つ困ることがあり――。
【確かに!¥5000】
【怒られた程度で推せないなんて、ファンとは呼べないよな!¥5000】
【というか、推しに怒られるとかご褒美だろ!¥5000】
こんなふうに、悪ノリしてくるファンたちがいるのだ。
「こらこらこらこら! なんであんたたちまで投げてくるのよ!? 投げるなって言ってるでしょ! 後、スパチャしなくても推してることになるからね! とりあえず、もうやめなさい!」
姫花はそう注意するが、高額スパチャは次から次へと飛んでくる。
慌てる姫花を面白がっているのだろう。
その後も大小いろいろとあったが、沢山のスパチャが飛んできたのだった。
「――って、結局悩み解決してないし……!」
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