花咲姫花は氷坂吹雪をオトしたい
ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】
第1話「学校のマドンナへの告白」
「――
屋上に、想い人を呼び出した
ギュッと目を瞑り、心の中で祈りながら相手の返事を待つ。
すると――。
「…………」
学校のマドンナこと、氷坂吹雪は、無言で姫花の脇を通り過ぎた。
「あれ!? 無視なの!?」
オーケーどころか返事すらもらえなかった姫花は、驚いて後ろを振り返る。
すると、風に流される長い黒髪を手で押さえながら、吹雪が困ったように口を開いた。
「今の、私に言ってたの……?」
「いや、名前呼んだよね!?」
困惑しながら小首を傾げる吹雪に対し、すかさず姫花はツッコミを入れる。
「そう……聞き間違えかと思ったわ」
「てか、今屋上には私と氷坂さんしかいないよね!? 誰に言ったと思ったの!?」
「架空の誰か?」
「私、痛い人じゃん!」
天然とも取れる発言に、姫花は頭を抱えてしまう。
わざとはぐらされているのか、それとも本気なのかは判断が付かないが、予定していた流れとはかなり違う展開になってしまった。
「私が告白をしたのは、氷坂さんだよ! 返事を聞かせて!」
「えっと……ごめん、無理」
「がーん……!」
あっさりと振られてしまった姫花は、その場にくずおれてしまう。
バンバンッとコンクリートを叩き、不満をアピールした。
「私の何が駄目なの……!?」
「タイプじゃない?」
「ぐふっ……!」
このまま引き下がりたくない姫花が体を起こして尋ねると、ナイフのように鋭い言葉が吹雪から返ってきた。
その言葉は姫花の胸を抉り、再び姫花は体を倒してしまう。
「そんな……だって、前言ってたじゃん……。私の声が好きだって……」
それは、一年生の時に行った林間学校での出来事。
姫花は吹雪と二人きりになった時に、声を褒められたのだ。
しかし、吹雪は困ったように頬を指で掻く。
「だからといって、あなたのことを好きということにはならないし……。というか、そもそも私たちどっちも女の子じゃない。女の子同士が付き合えるはずがないでしょ?」
「そんなことないよ!」
吹雪の一言が聞き捨てならなかった姫花は、バッと体を起こして吹雪に詰め寄る。
一瞬で距離を詰めてきた姫花に驚いて、吹雪はパチパチと瞬きをするが、そんな様子なんておかまいなく姫花は迫った。
「今時女の子同士で恋愛している人は普通にいるよ! アメリカなんて、同性婚が認められるようになったし!」
「でも、日本は認められてない……」
「認めてほしいって声は年々増えてるんだよ! きっと、時間の問題だよ! 何より、愛に性別なんて関係ないもん!」
「…………」
グイグイとくる姫花に対し、吹雪は困ったように視線を彷徨わせる。
今までも告白をされたことはあるが、全員男子であり、ここまでしつこく迫ってくる人間は一人もいなかった。
大抵は、『無理』と一言告げれば心が折れたのだ。
しかし、姫花は諦める気がなさそうだ。
「女の子がいいなら、他の子に行ったほうがきっとあなたも幸せになれるわ」
「違うよ! 女の子じゃなくて、氷坂さんがいいんだよ! 私、誰かを好きになったのは氷坂さんが初めてだもん!」
「そう……じゃあ、諦めて」
「がーん……!」
一生懸命想いを伝えた姫花だったが、吹雪には届かなかった。
姫花が跪いた瞬間に、吹雪はさっさとドアを開けて逃げてしまったほどだ。
こうして、姫花の人生初の告白は失敗に終わった。
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