花咲姫花は氷坂吹雪をオトしたい

ネコクロ

第1話「学校のマドンナへの告白」

「――氷坂ひょうさか吹雪ふぶきさん! 私とお付き合いしてください!」


 屋上に、想い人を呼び出した花咲はなさき姫花ひめかは、人生初の告白を行った。

 ギュッと目を瞑り、心の中で祈りながら相手の返事を待つ。

 すると――。


「…………」


 学校のマドンナこと、氷坂吹雪は、無言で姫花の脇を通り過ぎた。


「あれ!? 無視なの!?」


 オーケーどころか返事すらもらえなかった姫花は、驚いて後ろを振り返る。

 すると、風に流される長い黒髪を手で押さえながら、吹雪が困ったように口を開いた。


「今の、私に言ってたの……?」

「いや、名前呼んだよね!?」


 困惑しながら小首を傾げる吹雪に対し、すかさず姫花はツッコミを入れる。


「そう……聞き間違えかと思ったわ」

「てか、今屋上には私と氷坂さんしかいないよね!? 誰に言ったと思ったの!?」

「架空の誰か?」

「私、痛い人じゃん!」


 天然とも取れる発言に、姫花は頭を抱えてしまう。

 わざとはぐらされているのか、それとも本気なのかは判断が付かないが、予定していた流れとはかなり違う展開になってしまった。


「私が告白をしたのは、氷坂さんだよ! 返事を聞かせて!」

「えっと……ごめん、無理」

「がーん……!」


 あっさりと振られてしまった姫花は、その場にくずおれてしまう。

 バンバンッとコンクリートを叩き、不満をアピールした。


「私の何が駄目なの……!?」

「タイプじゃない?」

「ぐふっ……!」


 このまま引き下がりたくない姫花が体を起こして尋ねると、ナイフのように鋭い言葉が吹雪から返ってきた。

 その言葉は姫花の胸を抉り、再び姫花は体を倒してしまう。


「そんな……だって、前言ってたじゃん……。私の声が好きだって……」


 それは、一年生の時に行った林間学校での出来事。

 姫花は吹雪と二人きりになった時に、声を褒められたのだ。

 しかし、吹雪は困ったように頬を指で掻く。


「だからといって、あなたのことを好きということにはならないし……。というか、そもそも私たちどっちも女の子じゃない。女の子同士が付き合えるはずがないでしょ?」

「そんなことないよ!」


 吹雪の一言が聞き捨てならなかった姫花は、バッと体を起こして吹雪に詰め寄る。

 一瞬で距離を詰めてきた姫花に驚いて、吹雪はパチパチと瞬きをするが、そんな様子なんておかまいなく姫花は迫った。


「今時女の子同士で恋愛している人は普通にいるよ! アメリカなんて、同性婚が認められるようになったし!」

「でも、日本は認められてない……」

「認めてほしいって声は年々増えてるんだよ! きっと、時間の問題だよ! 何より、愛に性別なんて関係ないもん!」

「…………」


 グイグイとくる姫花に対し、吹雪は困ったように視線を彷徨わせる。

 今までも告白をされたことはあるが、全員男子であり、ここまでしつこく迫ってくる人間は一人もいなかった。

 大抵は、『無理』と一言告げれば心が折れたのだ。

 しかし、姫花は諦める気がなさそうだ。


「女の子がいいなら、他の子に行ったほうがきっとあなたも幸せになれるわ」

「違うよ! 女の子じゃなくて、氷坂さんがいいんだよ! 私、誰かを好きになったのは氷坂さんが初めてだもん!」


「そう……じゃあ、諦めて」

「がーん……!」


 一生懸命想いを伝えた姫花だったが、吹雪には届かなかった。

 姫花が跪いた瞬間に、吹雪はさっさとドアを開けて逃げてしまったほどだ。


 こうして、姫花の人生初の告白は失敗に終わった。

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