第9話「意外と押しに弱い」

「それで、話とは何かしら?」


 屋上に着くなり、吹雪はさっそく切り出してきた。

 姫花は吹雪と二人きりの空間にドキドキしながら、かわいらしく小首を傾げる。


「とりあえず、お弁当食べながらお話ししない?」

「…………」


 嬉しそうにお弁当箱を見せてくる姫花に対し、吹雪は冷たい目を向ける。


「一緒に食べるつもりはないわ。話を聞いたら教室に戻るから」

「でも、お弁当箱……持ってきてるよね?」

「――っ」


 指摘をされた吹雪は、バッとお弁当箱を後ろ手に隠す。

 だけど、それで持っていたことは誤魔化せない。


「氷坂さんも、一緒に食べるつもりだったんじゃないのかな?」

「違う、これは咄嗟に持っただけ……! あなたなんかと食べる気はない……!」


 指摘されたからか、吹雪の頬はほんのりと赤い。

 そんな吹雪を見た姫花は――。


(氷坂さんって、実はツンデレ?)


 と、考えてしまう。


「それはちょっと効率悪くない? 食べながらお話ししたほうが、効率いいと思うの」


 吹雪がどういう人間なのか。

 なんとなくわかっている姫花は、吹雪の攻略にかかる。


 吹雪は物事を利害で考えたり、効率を気にする節がある。

 そのため、そこを突いてみたのだ。


「あなたと食べた場合、静かに食べられそうにないんだけど……」


 一応姫花の言葉は刺さったのか、食べる方向を検討してくれたようだ。

 しかし、返ってきた言葉は、チクリと姫花の心に刺さる。


「私、うるさい人間だと思われてる!?」

「実際今、普通にうるさいじゃない」


「これは、氷坂さんがツッコますようなことを、言ってるせいだと思う……!」

「人のせいにしないでくれるかしら?」


 相変わらず、吹雪は取り合わない態度を取る。

 それにより、姫花は不服そうに頬を膨らませた。


(まるで、子供ね……)


 姫花の態度を見た吹雪は、そう思う。


「まぁ、いいわ。今回だけ、一緒に食べてあげる」


 いったいどんな気まぐれなのか、吹雪は日陰に向けて歩を進めた。


「いいの!?」

「あなたの場合、食べるって言うまで食い下がってきかねないからね。もう一度言うけど、今回だけよ?」

「んっ、ありがと!」


 姫花は嬉しそうにお礼を言い、吹雪の隣に腰を下ろす。


(この感じ、グイグイ行けば意外といけるかも……!)


 ここまで、何度か姫花が押すと、吹雪が折れる姿勢を見せていたため、姫花は勝算を見出す。

 今までは、冷たく突き放す吹雪に食い下がれるような、根性のある男子がいなかっただけなのかもしれない。

 このままいけば、少なくとも姫花にとっては、楽しいランチタイムになりそうだった。


 しかし――。


「氷坂さんのお弁当おいしそう! お母さんが作ってくれてるの?」


 姫花にとっては、何気ない質問だった。

 吹雪のお弁当を見て、とてもおいしそうだったので、そう聞いただけだ。

 だけど、吹雪は――。


「…………」


 とても不機嫌そうに、姫花の顔を見てきた。


「えっ……?」

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