第11話「ギャルたちの頭」

「――こ、この子たちが、姫花ちゃんのお友達なの……?」


 迎えた姫花の誕生日。

 家に来た美玖と莉音を見た姫花の母親は、引きつった笑みで姫花に尋ねる。


「あ~、はい。そうですよ」


 どうして母親がそんな笑みを浮かべているのか察しがついた姫花は、困ったように笑って頷く。


「姫花ちゃん、ちょっと」


 母親は、チョイチョイッと手でやり、姫花を連れて行く。


「――しおんと、あそぶ?」

「ちっちゃ! かわい!」

「きゃぁ、姫花ちゃんの妹ちゃん!? 天使じゃん!」


 玄関に立ったままの莉音と美玖は、足元に近づいてきた小さな天使に気を取られているようで、姫花と母親のようすに気が付いていないようだ。


「姫花ちゃん、脅されたりしてない? 本当にお友達なの?」


 莉音たちから離れるなり、母親は真剣な表情で姫花の顔を覗き込んでくる。

 これに悪意があるわけじゃないというのは、姫花もわかっていた。


 中学時代の姫花は、陰キャでボッチだったのだ。

 高校になってから、ヤンキーと間違われそうな莉音と、派手な見た目をしている美玖を紹介すれば、心配されるのも仕方がない。


「大丈夫です、二人ともとても優しくて、いい子たちなので」

「ほ、本当に……? 弱みを握られているなら、ちゃんと相談してよ? こういう時は、大人の力が必要なんだから……!」

「大丈夫ですって。ほら、紫苑も甘やかしてくれてますよ?」


 そう言って、姫花は莉音たちのほうを指さす。

 すると、そこには――。


「おい美玖、手を放せって……!」

「やだよ、莉音ちゃんが放してよ……! この子は、美玖が抱っこするの……!」


 紫苑の、取り合いが始まっていた。


「「…………」」


 姫花はチラッと、母親の顔を見る。

 目が合うと、ニコッと笑みを返してきた。


(ま、間が悪すぎる……!)


 ダラダラと汗を流しながら、姫花はすぐに莉音たちのもとに戻った。


「わぁああああん! ねえねぇええええええ!」


 姫花が戻ってきたことに気が付いたのだろう。

 紫苑は莉音と美玖の手を振り払い、姫花に向かって走ってきた。

 だから姫花は腰をかがめ、優しく抱きとめる。

 そして、莉音と美玖に冷たい目を向けた。


「私の天使を泣かさないでくれない?」

「お、おぅ、わりぃ……」

「ご、ごめん、姫花ちゃん……。美玖たち、そんなつもりじゃなかったの……」


 言いようのないプレッシャーを放つ姫花により、莉音と美玖は数歩後ずさる。

 そんな三人を見た、姫花の母親は――。


(も、もしかして、姫花ちゃんが頭なの……!?)


 と、盛大な勘違いをするのだった。

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