14話 始まる?アピール合戦!

 波乱の席替えから、かれこれ一ヶ月が経とうとしていた。


 梅雨の季節は終わりを迎え、カラッとした暑さが続いた。


 人間というのは適応能力に優れているらしい。

 最初こそイライラとすることもあったが、気が付けばこの暑さにも慣れてきた。


 だからこそ、物申したい。


 いつになればこの環境に、クラスの奴らは適応できるのだろうか。


「はい、天斗。卵焼き」

「どうぞ、天斗。からあげです」

「あ、ありがとう」


 昼休み、こうして二人の美女に囲まれながら、俺は弁当を食べていた。


 いつも通り瑞希が弁当を作ってきてくれるのだが、それに加えて二人がそれぞれのおかずを俺にあーんしてくれる。


 瑞希に関しては中身同じなのに。


 という訳で、傍から見たらただただ羨ましい光景なのだろう。

 俺はとんでもなく殺意の籠った視線を感じていた。


 それと同時に確信したことが一つ。


 やっぱり瑞希もかなり人気が高い。


 くそ、俺とつるんでるから同じレベルだといつからか錯覚していた。

 あぁ、何で俺の周りはみんな顔が整っているのだろうか。


 俺がそんなことを考えながらおかずを交互に食べさせてもらっていると、弁当を食べ終えた美女二人が、何やらにらみ合っていた。


「ねぇ天斗。私の家に来てよ」


 そう言って、瑞希はドヤっといった顔を俺ではなく花奈に見せる。


「天斗。天斗の家でお泊り会しましょう」


 そう言って、対抗するように瑞希の方を見る花奈。


 しばらくにらみ合っていた二人は、今度は自慢大会のようなものを始めた。


「変な男に絡まれたとき、守ってくれた時の天斗、カッコよかったな~」

「雷に怯える私を抱きしめて一緒に寝てくださった天斗は、本当に男らしかったです」


 あぁ、終わった。

 俺が恥ずかしい。


 というか、こいつら本人を前によく堂々と褒めれるな。


 控えめに言って嬉しい。


 と、そんな感じであーだこーだ言い合っていた二人だったが、ついに瑞希が最終兵器を取り出した。


「私、俺の女って言われたからな~」


 そう言って、少し顔を赤らめながらちらりとこちらをみる瑞希。


 あぁ、辞めてくれ、今にも殺されそうな雰囲気が男共から漂っているのに、なんか余計にヒートアップしたし。


 俺がそんな風に居心地が悪くなっていると、瑞希の発言を待ってましたと言わんばかりに花奈が見たことのない勝ち誇ったような顔で爆弾をぶち込んだ。


「私、この間天斗に、その、下着を見られましたので……」

「へ?」


 教室が、飛んでもなく静かになった。


 顔を赤くし、俺の方を横目で見てくる花奈は、確かに魅力的だし可愛かった。

 しかし、今この時においては、悪魔の微笑みに見えてしまった。


 あぁ、俺のスクールライフが……。

 いや、元々無いに等しかったか。


 むしろ、この二人が関わってくれているおかげで、華のある学生生活を送れているのだから感謝か。


 なんて感じで俺が悟りを開き、無になっていると、一足先に意識を現世に取り戻した瑞希が、花奈ではなく俺に詰め寄った。


「天斗、どういうこと!」

「いや、どうと言われても」

「責任を取っていただくことになっていまして」

「いやいやいやいや待て待て待て待て」


 俺が返事に困っていると、次から次へと問題発言を繰り返す花奈。


 本当にこいつはあの花奈なのだろうか?と疑いたくなるレベルで今日はぶっ飛んでいた。


「オレ、アイツ、コロス」

「落ち着くんだ、友よ!」

「オレモ、アイツ、コロシタイ」

「ダメだ、俺も……コロシタイ」


 クラスの視線が全て集まる。


 そして、半分は面白い物を見るような視線を、もう半分は殺意の籠った熱い視線を送ってきていた。


 あかん、ほんまに殺される。


 命の危険を感じた俺は、とにかくこの目の前で起きている事態を納めることにした。


「天斗責任って何よ!」

「いやだから、何って言うか俺も知らないって言うか……」

「私は将来を誓った方にしか肌は見せないと決めていましたので……」

「いや、あれは事故だし……てか、忘れろって言ってたじゃんか!」

「事故とか関係ないでしょ!女の子を傷つけたなら責任取りなさいよ!」

「いやお前はどっちの味方なんだ瑞希!」

「今は花奈の味方よ!」

「嬉しいです、瑞希さん」


 二人は握手を交わし、何故か分かり合っていた。


 あぁ、何故だろうか。

 俺は俺以外の人を仲良くさせる能力でもあるのだろうか。


 まるで悪夢のような光景が、目の前に広がる。


 そうだ夢だ!これは夢なんだ!

 みんなおかしいからな。


 これが夢だと考えると、全ての辻褄が合った。


 花奈のトンデモ発言も、二人のやり取りも、きっと俺の潜在意識による夢なんだ。


 さぁ、俺の夢よ、今こそ覚めろ!


 俺はそう心で叫んで、頬をつねった。


「痛い……」

「何してるのよ」

「夢じゃなかった……」

「当たり前でしょ!」


 そう言って、瑞希が反対の頬をつねってくる。


 うん、やっぱり痛い。


 俺はこの痛みを感じながら、悲しい現実に向き合う覚悟をした。


 嘘です。全然覚悟が足りてません!

 今すぐ逃げ出したいです!


 しかし、そんな思いは儚く消え、瑞希が話を戻してしまった。


「それで、天斗はどう落とし前つけるのよ」

「いや、落とし前って……」

「天斗は何もしてくれないんですか?」

「いや、悪いとは思ってたけども」

「なら、私と同じでいいんじゃない?」

「え?」

「瑞希さんは何をしていただいたんですか?」

「デートしてもらった」

「なるほど」


 それを聞いて、フムフムと考える花奈。


 いや、それは瑞希が俺のことを、その、好きだったから罪滅ぼしになったけど、俺の事なんとも思ってない花奈からしたら、むしろ罰ゲームに近いんじゃないのか?


 そんな俺の考えとは裏腹に、花奈はしばらくすると、明るい顔をした。


「そうですね。私も、デートしていただきます」

「うん、それがいいね」

「ほんとにいいのか?俺とデートとかむしろ罰ゲームだろ?」

「はぁ、分かってないね、天斗は」

「はい、分かってませんね」


 俺の最もな発言にも関わらず、二人は呆れた様子で見つめ合っていた。


 分からん、何がいいのだろうか?

 男除けには確かになるから……そういうことなのか?


 俺はこれ以上考えても無駄だと言う結論に達し、諦めて受け入れることにした。


「じゃぁ、それで、お願いします」

「ありがとうございます」

「よし、これでまたフェアね」

「そうですね」


 そう言って、二人は笑い合う。


 しかし、その笑顔には先ほどまでの女の友情らしきものはなく、席替えの時に見た変なオーラがにじみ出ていた。


 うん、やっぱり分からない。

 女の子、コワい。


 こうして、俺はなんだかんだで花奈と週末に出かけることになった。

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