16話 文化祭が、動き出す
夏休みまで残り一週間を切り、学校では夏休みの予定を立てる生徒でにぎわっていた。
「席に着け―お前らに報告があるぞー」
騒がしい教室に、チャイムと同時に入ってきた担任は、そう言いながら黒板にさっそく文字を書きだす。
夏休み前最後のホームルームの時間。
二年である俺たちは、何が始まるのか既に分かっていた。
「もう分かってると思うが、夏休み明け早々にある文化祭の準備を始めるぞー」
担任がそう言うと、クラスがわっと盛り上がった。
あちらこちらで何をするかといった話が繰り広げられ、既に文化祭が始まっているかのように錯覚してしまうほどだ。
まぁ、確かにこの高校は文化祭に力を入れている高校で、例年多くの外部からの客を招き入れ、一つの祭りのような規模で行い、最後には花火も数発だが上がったりもする。
「楽しそうだね」
「だな」
そんな風に教室が騒がしくなった中、瑞希が後ろを向いてきた。
「今年は何するんだろうな」
「無難に焼きそばとかがいいけどな」
「たこ焼きもいいですけどね」
俺たちがそんな話をしていると、横から花奈が話に加わる。
最近見慣れた風景だ。
「いいなたこ焼き」
「確か大阪出身の子、いたよね」
「そうですね。本場の味を教えていただきたいですね」
「だな!」
この高校は、基本的に一年生がお化け屋敷や脱出ゲームと言ったイベント系、二年生が食べ物系の屋台、三年生が劇と言った決まりがある。
それに加えて各々の部活や有志団体がイベントや屋台を出すと言った感じだ。
「はいはい、静かに。いまから希望とるから順番に言ってけー」
「はい!猫耳でかき氷!」
「メイド服でパンケーキ!」
「チャイナ服でギョーザ!」
「おい男ども、本当にそれが通ると思ってるのか」
そりゃそうだ。
特にチャイナ服なんて無理だろ。
メイドはまだ可能性あるけど、何ゆえに?って感じだしな。
「他にマシな案あるやついないかー」
「からあげとか?」
「フランクフルトとかもよさそう!」
「かき氷とかもまだ季節的に行けるんじゃない?」
「そうそう、そう言うのよ。さすが女子だ」
かなりまともな意見に、担任はご満悦だった。
うん、確かにまともでいいけどな。
ただまぁ、なんか無難過ぎてちょっと物足りなさを感じてしまうのは俺が男だからかもしれない。
「他にあるやつはいるかー」
そう担任に言われ、クラスは再びざわつき始める。
「たこ焼きは、ほんとに面白そうだよね」
「確かにな。もっと中身とか変えたりして」
「当たりがあると面白いかもしれませんね」
「当たり……それだ!」
俺は花奈の意見から閃くと、勢いで手を挙げていた。
「おう、中川。何かいい意見でも思いついたか?」
「たこ焼きやりましょ!」
「たこ焼き?」
「はい。いろんな具材入った奴とか、ワサビ入りのが入ったロシアンたこ焼きとか作って話題性も作りましょう!」
「おぉ……」
「あの《・・》中川にしては面白いな」
「あぁ、あんな奴なのにな」
「普通に面白そうじゃない?」
「だよね。さすがあの中川君」
俺の意見に、方向性は男女で違うようだが、肯定的意見が多く集められた。
「聞くまでもなさそうだが、肯定の奴は一応手を挙げてくれ」
この様子を見た担任が、そう言うと、満場一致で手が上がった。
「よし、じゃぁうちのクラスはたこ焼きで決定だ」
そうして、その後のもろもろの準備などの話し合いが始まった。
夏休みが開け、二週間ほどで文化祭は始まる。
そのため、夏休みのうちに準備できるモノは準備したいとのことで、焼き場担当や売り子など、当日の役割もある程度決めていった。
ちなみに、大体は男は焼き場、女は売り子って感じで、看板を持つ役として数人男が宣伝係になった。
否、正確には俺が看板係になった。
俺だけだ。
あいつら嫌がらせだろう。
ただまぁ、瑞希も宣伝係として一緒に行動することになったのは不幸中の幸いではある。
ちなみに花奈は看板娘として店の前で呼び込みをする役割になった。
ま、確かにこんなに可愛い子が呼び込みをしてたら行きたくなるのも無理はないしな。
「よし、じゃぁある程度決まったな。後は連絡だが、今年もミスコンミスターコンやるらしいから、盛り上がるためにも少しでも興味あるやつは出てくれだと」
「仕方ない、俺が出てやるか」
「やめとけ。俺が出るからお前優勝できないぞ」
「ほざけ」
担任の言葉に、男共がなぜか名乗り上げ、女の子がそれを冷めた目で見ていた。
はぁ、だからモテないんだろうな、うちのクラスの輩は。
「まぁ、参加は自由だからな。どんどん募集中とのことだから興味あるやつは生徒会室の前のボックスに必要事項を書いた紙を入れろってことだ」
そうして、終業のチャイムがタイミングよくなり、そのまま終礼へと向かった。
俺はそんな風に盛り上っているクラスを見て、文化祭が楽しみになるのであった。
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