15話 幼馴染みと今更デートとか照れる

 期末テストが無事終わり、学校ではいよいよ夏休みまで二週間となった。


 無事にテストを乗り切った俺は、潮風に吹かれながら大きな駅で人を待っていた。


 ここは横浜。

 神奈川県の県庁所在地だ。


 何故こんなところにいるかと言うと、もちろんあの約束を果たすためだ。


「お、来たな」


 周りがざわつき始める。


 駅を通る人達が、皆彼女を一目見る。

 彼女持ちの男も、その彼女でさえも、一瞬目を奪われてしまう容姿を持つ彼女は、俺の幼馴染み、海空花奈だった。


「お待たせしました、天斗」

「おう、俺も今ところだよ」


 綺麗な髪をたなびかせ、少し小走りで俺の元へと来た彼女は、周りからの視線には気づいていないのか慣れてしまっているのか、気にした様子はなかった。


 白い薄手の長袖に、薄いピンク色のロングスカート。

 黒の小さなショルダーバッグに、首元には可愛らしいネックレスをしていた。


 何と言うか、相も変わらず可愛いと言う言葉が似あう女の子である。


「制服もいいけど、やっぱり私服も可愛いな、似合ってる」

「ありがとうございます。天斗もかっこいいですよ」

「別に、お世辞で言ったわけじゃないんだけどな」


 そう、花奈はともかく、俺はお世辞で言ったわけではなかった。

 しかし、何故だかその言葉はスッと出てきたのだった。


 今まで、そんなこと言ったことなかったんだけどな……。


 彼女に思いを知られることが怖かった。

 それに、そもそも彼女とは少しずつ距離さえできていた。


 だから、俺はせめて幼馴染みとしての関係だけは保っていたかった。


 なのに、今はそう気づかれてもおかしくない発言を自然としてしまった。


 どういうことだ?


俺は答えになかなか行きつかない疑問に、解決することを一度諦めることにし、歩き出すことにした。


「それじゃ、行くか」

「はい」


 そうして、俺たちは二人で並んで歩き始めた。




 横浜の町はすごく人が多く、俺たちは離れないよう少し近い距離で歩いた。


 街には多くのカップルや家族連れでにぎわっていた。


「人多いな」

「そうですね。休日ですから」

「ま、そうだよな」


 俺たちはそんな会話をしながら、昼ご飯がてらに中華街へと足を運んだ。


 中華街は、その名前通り中華の店であふれていた。


「何食べたい?」

「小籠包ですかね」

「だよな、俺も」


 俺たちはそう言って頷くと、早速小籠包の店に行った。


「うん、美味かった」

「そうですね、美味しかったです!」


 少しテンションが上がっているのか、少し食い気味にそう言ってきた花奈は、何だか少しだけ子どもっぽさを感じた。


「次どうする?」

「では、胡麻団子が食べたいです」

「よし、じゃあそうしよう」


 そうして、俺たちは思う存分中華を堪能した。


「ふう。満足満足」

「ですね、おなかいっぱいです」


 そう言いながら、俺たちは二人で街を歩いていた。


 本来の目的である中華街を堪能し、時間があるので俺たちは横浜の町を散歩していた。

 ゆっくりと大回りをしながら駅に向かうと言った感じだ。


「何だか懐かしいな」

「そうですね。昔はよく二人で色々なところに行きましたね」

「そうだな。最後に出かけたのは近所のショッピングモールだっけ?」

「そうですね……」


 俺たちはそう言って懐かしさに思いをはせた。

 二人並んで街を歩く。

 確か、あの日は一緒にお昼ご飯を食べに行って、ついでにいろんなところを回ったんだよな。


「もう、四年も経つのか……」

「そうですね」


 四年。そう、四年だ。

 最後に二人でというか、花奈と出かけたのは小学校の時だ。

 そして、俺たちの距離ができたのも、あの時だ。


「……」

「……」


 気まずい沈黙が流れた。

 それもそうだ。俺たちはこの話題をずっと出さなかったのだから。


 四年前、俺と花奈が出かけたあの日、たまたま同級生にそれを見られていた。

 そして、俺たちはカップルなどと言われてちょっかいを出された。

 正直俺は花奈のことが好きだったし、まんざらでもなかった。


 だが、今でも覚えている。

 俺がちらっと花奈の方を見ると、彼女が泣いていたことを。


 それからだ。

 俺は勘違いされないように、そして、この気持ちを隠すために。


 俺は、花奈から距離を取るようになったんだ。


 ハハッ。

 そういやそうだったな。


 俺はとうの昔に彼女にフラれていたじゃないか。


 何で忘れてたかな。

 忘れたかったからかな。

 嫌、違うか。


 もしかしたら、彼女に好かれる日が来るんじゃないかと思っていたからか。


 俺は少し傷心に浸った。

 そしてふと隣を見た。


 綺麗な顔立ちは、昔から変わっていないが、守ってあげたかったあの頃とは違い、今は大人びている。


 うん、やっぱり綺麗だな。


 俺が見つめていると、不意に目があった。


「どうしました?」

「いや、綺麗だなって」

「ありがとうございます」


 そう言って微笑む花奈。


 あぁ、分からない。

 やっぱりこの関係は心地が良い。


 そう、心地いいのだ。

 この気持ちに、嘘はなかった。


 なのに、なんだろうか、胸の奥が少しきゅっとする。


「天斗?」


 俺が胸を抑えると、花奈声を掛けてきた。


「大丈夫ですか?」

「いや、大丈夫。ちょっとかゆかっただけ」

「そうですか、それは良かった」


 俺はそう言うと、心のモヤモヤに蓋をして、話を切り出す。


「なぁ、またどっか行こうな」

「はい、また行きましょう」


 そう言って、彼女は綺麗に微笑んだ。

 誰が見ても、綺麗な笑顔で。




「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、楽しかった」

「ではまた」

「おう」


 そうして、花奈は家に入っていった。


 俺はそんな彼女を見送ると、踵を返し、帰路に就く。


 違和感の正体は分からない。

ただ、何となく気分は良かった。


「明日が楽しみだな」


 俺はなぜかそんなことを呟いて、風の気持ちい夜をゆっくりと歩いた。

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