17話 夏休みは自由に過ごしたい
セミの鳴き声が耳に届き、眩しい光が窓越しに顔に当たる中、俺はゆっくりと目を覚ました。
「ふう。いい朝だ」
俺はそう呟くと、スッと体を起こすと、大きく伸びをした。
「もうお昼ですけどね」
「そんなことは分っている」
「なら、早く起きてください。お昼ご飯、できてますよ」
「あぁ、ありがt……は?」
普段から自問自答をしているからだろうか、今の今まで自分と話をしていると思っていたのだが、明らかに誰かが俺の言葉に返事をしていた。
眠り眼を擦って、俺はその人物を見た。
「なんですか、そんなにじろじろ見ないでくださいよ」
そう言って、少し恥ずかしそうに頬を赤らめたのは、紛れもなく俺の幼馴染みだった。
まるで新婚夫婦の休日のような会話をしていたのが花奈だったのだ。
さすがに驚きを隠せない。
「ほら、起きてください」
「お、おう」
俺は朝っぱらから何故こんな事になっているのか理解が追いつかないが、とりあえず起きてリビングに向かうことにした。
俺の両親は、確か昨日の夜から海外に旅行に行くと言って一週間程家を空けると言っていた。
そのため、俺は好きなだけ寝れることにひゃほーして、昨日の夜は眠くなるまでアニメを見ていた。
何故なら昨日で学校が終わり、夏休みになったからだ。
そう、夏休みになったのだ。
だから、花奈と会うことは無いと思っていたのだが、まさか初日から会うことになるとは思わなかった。
「何でいるのかって顔をされてますね」
「あ、あぁ」
俺が言われるがまま席に着いてテーブルに並べられた定食を見ていると、向かいに座った花奈がそう言ってきた。
まぁ当たり前だ。
誰もいないと思っていた家に、何故か幼馴染みがいるのだから。
「その様子ですと、恐らく尚子さんから何も聞いていらっしゃらないのですね」
「あぁ。海外旅行に行くから一週間家を空けるとしか」
「実は、その旅行なのでが、私の両親と天斗のご両親の四人で行っているんです」
「え、そうなの」
「はい。ですので、私が天斗の家にお邪魔することになりまして」
「あーなるほど」
よく分かった。
大方花奈の両親が花奈を一人にするのが心配だと言って、俺の両親がならうちに来て俺の面倒を見てくれとでもいったのだろう。
だからさ、そう言うのは早く行ってくれ母さん……。
俺は両親の勝手すぎる行動に辟易しつつ、花奈のおいしい手料理を口に運び、心を落ち着かせた。
「うん、相も変わらず花奈の料理は美味いな」
「ありがとうございます。天斗も相変わらずお昼まで寝ているんですね」
「いや、今日のはたまたまって言うか……」
「知ってますよ、夏休みが始まるといつもはしゃいでいましたからね」
「そういや、昔からそうだったか」
「そうですよ。天斗は昔から何も変わっていません」
「なんだよそれ」
花奈はそう言うと、綺麗な笑顔で笑った。
まるで何かを隠すかのように。
俺はそれを言われて、何の成長もしていないと言われている気がして少し思う所もあったが、確かに何か成長したのかと言われれば特に何もなかったのでぐうの音も出なかった。
昼飯が終わると、花奈は用事があると言って家を出て行った。
俺は皿だけ洗ってまた部屋にこもってラノベを読み始めた。
そして、しばらくもくもくと読んでいると、日が傾きだした頃に花奈が帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「おう、お帰り」
ドアの開く音と共に、俺は玄関へと向かったのだが、花奈は買い物袋を片手に帰ってきた。
「言ってくれたら一緒に行ったのに」
「いえ、ついででしたので。それに、色々お安くなっていましたから」
「そうか、悪いな」
俺はそう言って、彼女から荷物を受け取り、一緒に冷蔵庫に買ってきたものを入れた。
少しすると花奈はおいしそうな晩御飯を用意してくれた。
献立としては、俺の好きなから揚げの定食だった。
「いただきます」
「いただきます」
二人で席に座ると、俺たちは共に手を合わせて食べ始めた。
相変わらず美味い食事をしていると、不意に花奈が話しかけてきた。
「あの、突然で申し訳ないのですが、明日は何か予定などありますか?」
「ん?特に何の予定もないけど、どうかしたのか?」
「はい、その、もしよろしければお出かけをしたいと思いまして」
そう言った彼女は、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。
俺はそんな様子に少しドキッとしつつも、なるべく平静を装いながら返事をした。
「俺も何も無かったら家からでないと思うしむしろ喜んでいかせてもらうよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
「いいよいいよ」
どんな理由で俺を誘ったのかは分からないが、せっかく花奈が遊びのお誘いをしてくれているのだ。
断る理由なんて何一つなかったので、俺は少しの疑問を残しつつも快く承諾するのだった。
「ところで、どこに行くんだ?」
「それは明日になってからのお楽しみということでもよろしいでしょうか?」
「お、おう。それなら楽しみにしとくよ」
「ありがとうございます」
綺麗な笑顔でそう言われると、これ以上無理に聞く気にもなれず、俺はそう言って引き下がった。
食事を終え、俺たちはそれぞれ部屋に戻った。
「花奈から誘われるとはな……」
つい数か月前から考えられないことであった。
中学以来、遠のくばかりだった俺たちが、ここに来て一緒に昼ご飯を食べたり出かけたりする仲にまで戻ってきたのだ。
「ほんと、人生何があるか分からないな……」
俺は、花奈と一緒にいることに対して違和感を感じなくなっていることに驚きつつも、明日にワクワクしながら眠りにつくのだった。
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