6話 お泊り会イベント発生!〈後編〉

 しばらくして母さんが帰ってきて、晩飯となった。


 いつもは母さんと二人での飯の時間も、今日は花奈がいることで少し賑やかだった。


「ほんと、花奈ちゃんは美人さんに育ったわね」

「ありがとうございます。尚子さん」


 晩飯中、母さんは花奈にずっと話しかけていた。


 ずっと娘が欲しかったと言っていた母さんは、花奈のことを我が子のようにかわいがっていた。

 勿論俺も花奈の両親に可愛がってもらったので、別に嫉妬とかそんな感情はなかった。


 ただ、それだけ近い距離で花奈と話せる母さんが、ちょっとだけ羨ましいと思ったりはした。


「ごちそうさまでした」


 しばらくすると、花奈が上品にそう言って、食器を運んだ。


「あら、別にそのままにしていてくれて良かったのに」

「いえ。お料理をごちそうしていただいたので、これぐらいはさせてください」

「ほんと、立派なお嬢さんに育ったわね。それに比べてあんたは……」

「悪かったよ!出来の悪い息子で!」


 母さんは俺と花奈を見比べて、がっくりと肩を落とした。


 違うぞ母さん。

 俺が駄目なんじゃなくて、花奈ができすぎているのだ。


「お風呂湧いてるから、先に入って、花奈ちゃん」

「ありがとうございます」


 そう言って、彼女はちらりと俺のことを見た。


 その一瞬の動きで俺は察した。


 覗いたら殺すぞと顔に書いていた。

 いや、正確には、覗かないでくださいよ?って感じだけど。


 とにかく、俺は気を付けようと心に決め、リビングでソファーに寝転がり、テレビを見始めた。




「キャー!」


 数十分が経過したころ、突然悲鳴が家の中に響いた。


 俺は、飛び跳ねるように起き上がると、声のした方へと向かった。


 声の主はもちろん花奈で、俺は何があったのか心配で、確認もとらずに扉を開けてしまった。

 もちろん、開けた扉は脱衣所の扉だ。


 あぁ、察しのいい方ならもう気が付いただろう。


 ハプニングとは意外と連続して起きるものなのだ。


「あ……」


 扉の先には、バスタオル一枚の女神の姿があった。


 濡れた金色の髪に、ほてった白い肌。

 タオルに押しつぶされた双丘は、少し息苦しそうにしていて、すらっと伸びた足は、きめ細やかで真っ白だった。


 部屋で見た着替え中の時とは違い、なんというか見えてはいけないものが見えていないので、余計にエロスを感じた。

 控えめに言って最高だった……って、そんな感想言ってる場合じゃない。


「どうした!」

「む、虫が……」

「虫?」


 そう言って、花奈の視線をたどっていくと、そこには小さめの黒いやつがいた。


「あぁ、そう言えば昔から虫が苦手だったな」


 俺がそう言いながらティッシュでそいつをつまむと、花奈は震えながら強く頷いていた。


 完璧に見える彼女だが、虫と雷だけは昔から苦手だった。

 そう言う所を見ていると、少しだけ人間らしさを感じる。

 容姿は神そのものだが。


 と、そこで俺は思い出した。


 彼女は、今タオル一枚だったことを。


 恐る恐る顔を上げると、彼女とばっちり目が合った。


 そして、数秒間見つめ合った後、彼女が今一度自分の格好を確認し、もう一度俺のことを見た。


 すると、見る見るうちに顔が真っ赤に染まり、彼女は無言で外を指さした。


 俺はその指示に従うように、かくかくと動きながらそとへと出た。


「あぁ、やっちまった」


 俺は自分の部屋に戻るなり、頭を抱えて布団にうずくまった。




 結局あの後、花奈は普段通りの表情で俺に風呂を出たことを伝えに来てくれた。


 寝る場所はさすがに一緒という訳はなく、空いている部屋を貸し出した。


 そして、俺も風呂に入り、今は一人自室でラノベを読んでいた。


 すると、コンコンとノック音がなり、扉が開かれた。


「天斗、今大丈夫ですか?」

「あぁ、いいぞ」


 俺がそういうと、花奈は失礼しますと言って、俺の部屋へと入ってきた。


 そして、チョコンと部屋の真ん中ぐらいのところで正座をした彼女は、どこかソワソワとした様子だった。


 どうしたのだろうかと疑問に思った俺は、聞いてみることにした。


「どうかしたのか?」

「いえ、何か目的がある訳ではないのですが……」


 そういって、言葉を濁す花奈。


 どうにもいつもと様子が違い、熱でもあるのかと心配していると、彼女は意を決したように、口を開いた。


「あの、天斗」

「どうした?」

「その、先ほどのは事故ですので、忘れていただければと思いまして……」


 そう言って、顔を少し赤らめながらちらりと俺の様子をうかがう花奈。


 俺はそんな様子を見ながら、風呂での出来事を思い出す。


「あ、あぁ。分かった」

「ありがとうございます。それでは、私はこれで」


 俺の返事を聞くと、花奈は顔を赤らめたまま、ゆっくりと立ち上がり、扉へと向かった。


「それでは、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 そう言って、彼女は自分の部屋へと向かった。


 彼女が出て行ってしばらく、俺はベッドの上で体を起こした状態で固まった。


 そして、急に力が抜けたようにベッドに倒れた俺は、枕に顔をうずめた。


「忘れろって、どうすりゃいいんだよ……」


 俺は嘆くようにそう呟いた。

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