5話 お泊り会イベント発生!〈前編〉

「キャー!」

「悪い!」


 俺はそう言うと、すぐに外に出て扉を閉めた。


「白か……」


 純白の布に包まれた大きな二つの果実は、服の上から見るよりも圧倒的な存在感を放っていた。


 いや、それにしてもかなり大きくなったな。

 俺の記憶ではまだなんの発展もなかったと言うのに。


 そんなキモイことを考えていると、少しだけ扉を開けて、こちらを覗くようにして花奈が顔を出した。


「見ましたか?」

「いや、全く」

「本当は?」

「はい、見ました」


 俺が正直に答えると、花奈はバタンと扉を強く締めた。


 俺、選択ミスったか?

 今日は何かと頭が回らないことが多いな。


 しばらくして、どうぞと花奈に言われ、俺は恐る恐る自分の部屋に入った。


 部屋に入ると、先ほどまでの純白の姿ではなく、少しラフな部屋着を着た花奈が座っていた。


「先ほどは取り乱してしまいすみませんでした」

「いや、俺こそごめん」


 部屋に入るなり気まずい雰囲気が流れる中、俺のスマホが震え出した。


「悪い、電話だ」

「どうぞ」


 俺は断りを入れると、スマホを取り出して電話に出た。


 電話の相手は、俺の母親だった。


「もしもし天斗」

「あぁ、もしもし母さん」

「今日、花奈ちゃんがウチに来るから、失礼のないようにしてね」

「あぁ」

「旦那さんが海外に出張で美紀さんもそれについて行くらしくて、一週間ぐらいうちに泊まるらしいから」

「え?」

「それだけ。帰ったらご飯作るから、それまで待っててね」

「あ、ちょっと!」


 それだけ言うと、母さんは電話を切ってしまった。


 何と言うか本当に一方的な人だ。


「てか、もっと早く言ってくれよ、そう言う大事なことは……」


 俺は頭を抱えながらそう呟いた。


 そしてくれればあんなアクシデントは起きずに済んだのに。


「悪い、母さんからだった」

「そうですか」

「美紀さんと勇人さん、海外に行ったんだってな」

「はい。ですので、一週間程お邪魔させていただきます」


 そうして、また気まずい空気になった。


 幼馴染みとは言え、仲が良かったのは昔の話だ。

 中学に上がったころにはほとんど話さなくなり、高校では事務的会話以外話したことは無かった。


 その理由には、俺が彼女のことを恋愛的に意識していたと言うのもあるし、何よりも格の違いがありすぎたと言うのが一番の理由だ。


 そして、俺はつい先日告白はしていないものの、フラれてしまったばかりだ。

 俺が一方的に気まずい。


 そんな空気が嫌だった俺は、何か話さなければと思い、飛んでもないことを聞いてしまった。


「そういや、何で俺の部屋で着替えてたんだ?」

「え、いえ、そうしろと言われまして……」


 俺の訳の分からない質問に、珍しく花奈が言葉を濁して聞こえない声で呟いた。


 またしても沈黙が訪れようとして、俺は続けて別の話題を振った。


「そう言えば、花奈が止まりに来るなんて、久しぶりだな」

「そうですね。小学生の時は度々お邪魔させていただいていたのですが」

「ま、俺たちも中学に入ったあたりからあんまり関わらなくなったしな」

「そう……ですね」


 一瞬、どこか暗い表情になったように見えた花奈は、すぐにいつも通りの優しい顔になって、真面目な口調で質問をしてきた。


「そう言えば、天斗は瑞希ちゃんと付き合っているのですか?」

「へ?」


 花奈の口からまさかの恋愛の話がでてきてびっくりした俺は、情けない声を上げてしまった。


「いや、付き合ってるとかそんなんじゃねぇよ」

「そうですか」


 どこかホッとしたように見えたのは、きっと俺が彼女にそう思って欲しかったからだろう。

 何せ俺は、彼女のことが好きなのだから。


「では、今日噂になっていたデートの話も、嘘なのですね」


 そう言って微笑みながらそう言う彼女に、俺は頬をかきながら目を逸らして事実を述べた。


「いや、それは、その、嘘ではないと言いますか……本当でもないと言いますか……」

「どういうことですか?」

「確かに遊びに行ったんだけど、その、デートとかそう言うのじゃないって言うか……」


 俺がそう言って苦しい言い訳をした。


 だって仕方がないじゃないか。


 確かに遊んでる時はデートっぽいなとか思ってたけど、別にデートするために集まった訳じゃないし?

 でも、次の約束とかしちゃったからデートと言われればデートだし?


 そもそも、好きな子の前で他の子とデートしてましたなんて胸を張って言える男がこの世に何人いるのやら。

 そうだ!俺は悪くない!


 なんて感じで自分に言い聞かせていた俺は、ふと花奈の方に視線をやった。


 すると、彼女は白い目で俺のことを見ていた。


「いや、その……」

「二人でお出かけしたんですよね?」

「はい」

「もう一度お聞きしますよ?デート、されたんですか?」

「……はい」


 俺はまるで浮気した男のようになっていた。


 いやさ、確かに俺が花奈のことが好きなのは事実だけど、別に付き合ってるとかじゃないし?

 てか、俺の事興味ないとか言ってきたのは向こうの方だし?

 俺悪くなくね?


 まるで言い訳をするかのように心の中でそう言っていた俺だが、何故だか少し後ろめたい気持ちがあったのも事実だった。


 きっと、まだ花奈に好かれたいと思ってしまっている自分がいるからだろう。


 やっぱり、自分の気持ちには嘘はつけないんだな。


「まぁ、私には関係がないのでいいのですが」

「あはは……」

「とにかくお付き合いしていなくてよかったです」

「何か言ったか?」

「いえ、お気になさらず」


 そう言って、彼女は優しい笑顔を向けた。


 ほんと、その顔はずるいと思う。

 そんな顔向けられたら、諦めつかなくなっちまうじゃねぇかよ。


 そんなことを思いながら、俺は飲み物を取りに部屋を出た。

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