学校で二番目に人気な女友達は、俺の一番になりたいらしい
天川希望
1話 オワリとはじまり
俺、
容姿端麗で成績優秀、おまけに運動もかなり得意で、誰にでも分け隔てなく優しい言わば女神のような存在である。
「おはよう花奈ちゃん」
「おはようございます、松永さん」
そして今、綺麗に手入れされた金色の長い髪をたなびかせながら教室に入ってきたのが、
透き通るような金の髪に、澄んだ碧い瞳は、イギリス人の母方の祖母譲りなのである。それでいて肌も白く、出るところはかなり出て、引っ込むところはしっかりと引き締まっている素晴らしい容姿は、これは確かに同じ人間だとは思えないのもうなずける。
ちなみに余談だが、彼女は母親にそっくりで、母親も綺麗な金髪である。
え?何でそんなことを知ってるのかって?それは勿論俺が彼女の幼馴染みだからだ。
妄想ではなく、本当にそうなのだ。
昔はよく一緒に遊んだし、なんならお風呂に入ったことだってある。
彼女のモテは小学生の時からで、危ない大人から俺が守ったことだって何度かある。
勿論これは自慢だ。
「海空さん、よろしければ今日、放課後僕と遊びに行きませんか?」
「海空さん!今日の昼、屋上で俺と二人で飯でも食べません?」
「海空さん、俺と付き合ってください」
「皆さんすみません、お誘いは嬉しいのですが、そう言ったお誘いはちょっと……」
「そうだよ男子!花奈ちゃんは私たちと約束があるんだから」
「そうそう」
こんな風に、彼女はとにかくモテるのだ。
いやまて、ちゃっかり告ってるやついたぞ。
とまぁ、そんな風に朝から男女問わず人気な彼女を見ていると、前の席から声を掛けられた。
「おはよー天斗」
「おう、おはよう瑞希」
声を掛けてきたのはこれまた目を惹く美少女だった。
彼女の名前は、
少しパーマのかかったふわっとした長めの茶髪と大きな茶色の瞳、少し短めのスカートからすらっと伸びる足は、彼女の魅力の一つである。出るところは……ノーコメントだが、そこ以外はかなりスタイルがいい。
勿論のこと、彼女はモテる。
花奈ほどではないが、噂では二番目に人気があるらしい。
「まーた花奈のこと見てたの?」
「ばか、ちげーよ」
「今度はイケメンバスケ部の先輩の告られたらしいよ」
「そーかよ」
「返事は気にならないの?」
「どっちでも」
「また振ったんだって、良かったね」
「よかねぇよ」
「好きなくせに」
「ほっとけ」
俺はそう吐き捨てると、鞄をあさり始めた。
「いいの?そろそろ取られちゃうかもよ?」
「俺には関係ねぇよ」
「噂では、2年で次期エースのサッカー部の岡部が狙ってるらしいよ」
「あいつならイケメンで成績優秀だし、花奈と釣り合ってんじゃね」
「またまたー、強がっちゃって」
俺はいかにも興味なさげにふるまった。
しかし、皆さんお察しの通り、俺は小学生の時から花奈のことが好きだった。
当たり前だ。
あんなに可愛い子とずっと一緒にいたんだ。
好きにならない方が難しいだろう。
でも、自分に自信のない俺は、なかなか好きと伝えることができずに、うじうじしている間に彼女との差は開く一方だった。
そして、ついに俺は諦めの境地に立ったのだ。
「はぁ、まぁいいや。それよりもさ」
「あぁ、あれだろ」
俺はさっきからあさっていた鞄から、とある本を取り出した。
話は変わるが、何故俺が二番目に人気と呼び声高い彼女と親しいのか、疑問に思っている人も多いだろう。
それは単純な話である。
彼女と共通の趣味があるからだ。
「昨日の新刊だろ?」
「そう!もう読んだ?」
「もちろん、控えめに言って最高だった」
「だよね!あそこで主人公が覚醒するところまでは何となくよめたけど、まさかヒロインがラスボスだったとはね……」
「だな。あれは複雑な気持ちになった」
窓際の席で二人仲良く話すのは、昨日発売のラノベの最新刊の話だった。
そう、何を隠そう俺と瑞希は結構なオタクで、その中でもラノベ系統を愛してやまないのだ。
一年の時に同じクラスになり、俺が放課後友達を待っている時に教室でラノベを読んでいたところ瑞希が話しかけてきたのだ。
それから俺と瑞希は学校でよく話すようになり、高二となった今も、その関係は続いている。
最初こそは男共の視線が痛かったが、今となっては慣れたものだ。
「次の最終巻が楽しみだな」
「そうね、主人公とヒロインの恋の行方がきになる」
「確かに」
そうして話が一段落したところで予鈴がなったので、瑞希は自分の席へと戻った。
クラスの奴らがそれぞれ席に着いたと同時に、一時間目の教科の教師が教室に入ってきて、しばらくして授業が始まった。
放課後になった。
生徒は皆、帰宅するか部活動へと向かい、校内が少し静かになった今、俺は自教室へと向かっていた。
理由は単純で、忘れ物をしたからだ。
「はぁ、憂鬱だ」
少しづつ暑くなってきた5月の中旬、俺はそんなことを呟きながら廊下を歩いた。
教室の近くまで来ると、なにやら人の話し声が聞こえてきて、俺は思わず聞き耳を立ててしまった。
「泉ちゃんは彼氏とどうなの?」
「私?私はね、まぁまぁ順調かな。この前キスまでいったし」
「えーキスしたの!いいなぁ私も彼氏欲しい」
「彼氏はいいよー。結衣ちゃん可愛いからすぐできるって」
「ありがとう泉ちゃん」
聞こえてきたのはガールズトーク。
完全に恋バナだった。
「あんな話してる教室に入るのは気が引けるな……」
とりわけ急ぐわけではなかった俺は、明日でいいかと思い、踵を返そうとした。
その時、馴染みのある声が、俺の耳に届いた。
「花奈ちゃんはそういう話ないの?」
「そうそう、この前もイケメンで有名なバスケ部の先輩からの告白断ったんでしょ?」
「そうですね、あまり存じ上げない方でしたので」
「勿体ないな~」
「だよね、私だったら喜んで受けるのに」
「私も」
「泉ちゃんには彼氏いるじゃん」
「いなかったらの話だって~」
そう言って、三人は楽しそうに笑った。
どうやら声を聞く限り花奈を含め女子三人で話をしているようだった。
聞いてはいけないと思いつつも、どうしても気になるのが男の性というやつで、俺はもう少し聞きやすいように教室に近づいて聞き耳を立てた。
「そう言えば花奈ちゃんって幼馴染みがいるんだよね」
「そうそう、確か同じクラスの中川だよね」
「はい、そうですね。天斗とは小さい頃からの知り合いですね」
「え、天斗?」
「あれあれ?花奈ちゃんが呼び捨てにしてる男子、初めて聞いたかも」
「それどころか、女の子も含めて初めてかも」
「もしかして、花奈ちゃんって中川のことが好きなの?」
俺は、今までにない緊張感で一杯だった。
聞くべきではない、そんなことは分っていた。
しかし、頭ではわかっていても、体はピクリとも動こうとしなかった。
もう半分諦め状態ではあったが、やはり気になってしまったのだ。
仕方がない、何せ十年近く片思いをしている相手なのだ。
どう思われているか、知りたくなるのはおかしなことではないはずだ。
俺はそう自分に言い聞かせ、彼女の返答を待った。
そうして、時間にして一瞬、体感は十秒ほどの時間が経った後、花奈はゆっくりと口を開いた。
「いえ、そういったわけではないのですが……」
そう言われた瞬間、目の前が真っ暗になった。
その後のことは何も覚えていないが、気が付いたら人気の少ない河川敷のベンチに座っていた。
分かっていたことだった。
俺のことなんて好きになるはずが無い事なんて。
でも、期待していなかったかと言われれば嘘になる。
だってそうだろ?どんなにカッコいい男でも、どんなに賢い男でも、どんなに運動のできる男でも、彼女の首が縦に振られることは無かったのだ。
それなら、ひょっとしたら俺のことが好きなのでは?と期待してしまってもおかしくはないだろう。
しかし、現実は甘くなかったみたいだ。
知ってしまったからには覆らない。
なるほど、これが失恋か。
心が痛い。
心臓が痛い。
息をしても、肺に空気が入らない。
きっと、食べ物ものどを通らないのだろう。
「分かってたつもりだったんだけどな……」
俺はそう呟きながら、空を見上げた。
夕日で茜色に染まった空は、俺の心に染みわたる。
夕日を見て、こんな気持ちになるなんて、昨日までの俺には想像できなかっただろう。
目頭が熱くなる。
懐かしい。
心に響く作品と出会った時も、こんな気持ちになったっけな。
でも、きっとこの感情はそれとは違う。
喜びでも、感動でも、悲しみでもない。
何も無い、虚無感のようなものだ。
頬に雫が伝う。
声は出なかった。
ただただ水滴が零れ落ちるだけだ。
我慢をするには、積み重ねた年月があまりにも大きすぎた。
そうして、俺は一人泣いた。
どれぐらいの時間そうしていただろうか。
辺りは薄暗くなり、夕日は見えなくなっていた。
「さて、帰りますか」
気持ちが少し落ち着いた俺は、立ち上がるために足に力をいれようとした。
すると、ちょうどそのタイミングで、背中の方から声を掛けられた。
「何があったの?」
その声は、よく知った声だった。
間違いない、毎日教室でラノベについて語り合っている瑞希の声だった。
しかし、その声はいつもと違って、どこか真面目さを感じた。
「別に、何もなかったよ」
「そっか」
俺がそう言うと、それ以上追及してくることは無かった。
そうして少しの間、沈黙が続いた。
しばらくして、彼女は俺の手にそっと手を乗せた。
俺は、それに合わせるように、そっと彼女の手を握る。
指と指の間にお互いの指を絡めて、きゅっと少し力を入れる。
「私さ、ずっと言いいたかったことがあるの」
静寂の中、彼女は呟くようにそう言った。
俺は黙って続きを待つ。
「ずっとさ、言うかどうか迷ってた。だって、天斗は花奈のことが好きだったから」
一つ深呼吸をして、彼女は話を続ける。
「だからさ、私は友達のままで良かった。天斗と笑って話せるなら、それでいいかなって思ってた」
彼女はそう言うと、少し握った手の力を強めて、さらに続けた。
「でも、やっぱり自分に嘘はつけないや」
そう言うと、彼女はパッと手を離し、俺の前に回ってきてた。
顔を上げると、ちょうど彼女と目があった。
暗闇の中、茶色く澄んだ瞳で俺を見つめる彼女は、真面目な口調で告げたのだった。
「私、天斗のことが好き。私をあなたの一番にしてほしい」
星の輝く夜空の下、月に照らされた彼女の姿は、何よりも眩しく、そして美しく見えた。
「悪い、それは、すぐには……」
「いいよ、別に」
俺があっけに取られて、返事に困っていると、瑞希がそう言った。
彼女は俺から目を逸らすと、後ろを向いて空を見上げた。
「綺麗な星空だね」
「あぁ」
俺は彼女につられるように顔を上げた。
周りに大きな建物がなく、このあたりでは綺麗に星が見える場所であったので、夜空には無数の星が輝いていた。
「たくさん見えるね」
「そうだな」
そしてまた、沈黙が続く。
しばらくして、彼女がまた口を開いた。
「今は、あの空の星みたいにたくさんいる女の子のうちの一人かも知れないけど」
そう言って、彼女はバッと空を指さした。
「あの、一際輝く一番星に、なって見せる」
そして、彼女はもう一度俺の方を向いた。
「だから、これからは覚悟しててね」
そう言って彼女は最高の笑顔で笑った。
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