11話 席替えに波乱はお決まりの展開
6月になった。
気温は少しずつ上がり、最近はじめじめとした嫌な天気が続きようになった。
相変わらず、花奈の周りには人が集まっている。
こんな暑いのに密集してどうすんだよ。
「あっつい」
「だねー」
俺の席の方に向いて、瑞希がだらっと机に突っ伏したまま、こちらを向いた。
「最近やる気出ない」
「だな。俺も最近家でずっとラノベ読んでる」
「私もー」
こうしてだらだらとした会話が先ほどから永遠と続いている。
やはり、蒸し暑いとストレスがたまるのだ。
ほんとにやめて欲しい。
「はーい席に着けー」
そうこうしていると、始業の鐘と共に担任が教室に入ってきた。
瑞希はそれを聞いて自分の席へと帰っていく。
「今日は席替えするぞー」
そう担任が口にすると、クラスの奴らが一気に雄たけびを上げた。
席替えか。
確かに、ここまでずっと同じ席だったし、席が変わるのはいいな。
そんな俺の考えとは違い、男共の考えることは決まっていた。
「女神の隣は俺がもらった!」
「いいや、俺だ!」
「男共ーうるさいぞー」
あまりにはしゃぐので、先生は苦笑いを浮かべつつ注意をした。
「よし、じゃぁくじ引きするから出席番号順に取りに来いー」
そうして、運命のくじ引きが始まった。
「窓際とかだったらいいな~」
俺はそんなことを呟きつつ、自分の番になったのでくじを引きに行った。
「26番……よし、一番後ろだ」
俺はそう言って、俺の番号の座席を確認した。
俺が望んでいた通り、窓際の一番後ろという最高の席を手に入れたので、俺は大満足で元の席に戻り、本を開いた。
順当にくじは進んで行き、いよいよ席の移動となった。
俺はすぐさまに特等席へと移動し、早々に本を開く。
そして、しばらくして前に人がやってきた。
「よろしくー天斗」
「なんだよ、瑞希か」
俺の前に来たのは顔なじみの瑞希で、俺は少しホッとした。
やっぱり、周りに知らないやつが多いと、面白味に欠けるしな。
今の俺みたいにずっと本を読んでしまう。
「ま、しばらくはよろしく」
「こちらこそ」
俺たちはそう挨拶を交わすと、お互い周りを確認した。
しかし、未だに俺の隣に人が来ず、もしかすると休みの人かな?なんて考えていると、クラスメイトのざわめきと共に、一人の女の子がやってきた。
「よろしくお願いします、天斗」
「お、おう。よろしく、花奈」
そう、俺の隣の席は、皆の憧れ海空花奈だった。
俺はその瞬間悟った。
あぁ、これ、あかんヤツや……。
俺は、集まる鋭い視線をノーガードで受け止め、辺りを見回した。
「またあいつかよ」
「〇ね!」
「神は何故我々に見方をして下さらないのだ」
「あー彼女欲しい」
「許せんな」
それぞれがぐちぐちと罵声を浴びせてくる。
……いや、一人欲望が出てるやつもいたが。
「よろしくー、花奈」
「よろしくお願いします、瑞希さん」
俺がクラスの男共に意識を向けていると、目の前で花奈と瑞希が挨拶を交わしていた。
そう、ただ挨拶を交わしているだけのはずなのに、二人から放たれるオーラは、すさまじかった。
まるで、気迫でバトルしているように。
「どうしたんだ?二人とも」
「別に、何でもないよ」
「はい、何でもないです」
そう言って、二人とも笑顔を向けてくる。
その表情から、何か禍々しいものを感じたのだが、それよりもこの二人から笑顔を向けられたことによる男共の矢のような視線の方がつらかった。
「ああ、終わった」
俺は、先の思いやられる展開に、頭を抱えずにはいられなかった。
お昼休みになった。
いつも以上に気がめいった俺は、ようやくの休息に少しホッとした。
そして、いつも通り瑞希が俺に弁当を渡してくれて、俺の席で一緒に食べることになった。
しかし、いつも通りでないことが一つ起きた。
「あの、私もご一緒してもよろしいですか?」
そう言ってきたのは、学園の女神、花奈だった。
すなわち、またしても視線が集まる。
はい、俺に休みなんてなかったわ。
もう、やってらんねー。
俺は心の中で、そう叫び、もうどうにでもなれとやけくそになった。
「私はいいよ」
「瑞希がいいなら俺もいいよ」
「ありがとうございます」
そう言った彼女は、椅子だけこちらに持って来ると、彼女も自分で作ったのであろう手作り弁当を俺の机に開いた。
「花奈のお弁当おいしそう!」
「ありがとうございます、瑞希さん」
食べ始めてすぐ、瑞希は花奈の弁当を見てそう言い放った。
確かに、俺はこの前彼女の手料理を食べさせてもらったので、何となく想像できていたが、あまり関わりのない瑞希にとっては新鮮だったのだろう。
まあ、イメージできないことはないと思うが。
「卵焼き交換しない?」
「いいですよ」
そう言って、二人は楽しそうに会話をする。
その様子を見ていると、今朝の不穏な空気は俺の勘違いだったような気がする。
「二人とも仲いいんだな」
俺がそう言うと、二人は少し引きつった顔をした。
「ええ。去年から同じクラスですし」
「そうね、私達関わりも多かったから」
あはははと苦笑いをする二人に、俺は少し戸惑いつつも、深追いするとヤバいやつだと察知し、何も聞かないことにした。
あぁ、女の子って怖い。
家に帰り、ベッドに寝転がった俺は、今日の出来事を思い返した。
何かと二人が絡んでくるので、その度に男共の視線が刺さる。
なんとも生きづらい環境だ。
「はあ、ほんと、どうなるのやら」
俺は思いやられる今後に目をつぶり、逃げるようにラノベを読み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます