第15話:遺跡というには文明的。さらにはオーバーテクノロジー。
程なく歩いた場所にあるという遺跡に向かって歩き出して早一時間。
ギルドの受付嬢の「程なく」がだんだん信用出来なくなってきた。
「あっ。あそこですね」
「これ?」
ライラの言葉に首を傾げる僕。指されたほうを見るが、人が密集しており遺跡の実態を確認することはできない。
「先客がいるようですね」
「そんなに人気なのか。遺跡って」
「でもダブルブッキングは珍しいケースですね。ほとんどギルドから日付を調整されるので──緊急な場合や、
「緊急だったら受付嬢さんから何か言われそうなものだけど……」
少し遠巻きに集団を観察する。
ボディーガードというか、これは騎士か?
「僕達も許可とってるから気にせずに中に入ってもいいんじゃないの?」
「いえ、もしかするとあの集団は王室関係者かも知れません──そうなると少し気をつけた方がいいでしょう」
王室関係者って、もしかして勇者がいるのか? ──それなら気をつけないといけないな。この星の人にはライラの従者ということで誤魔化すことができているが、勇者相手には通じないかもしれない。
「そうですね。ここまで厳重に警戒されていると勇者の可能性が高いと思います。それ以外で今王室が遺跡調査を行う理由は薄いでしょうし」
「じゃあ、もう少し様子見る?」
「そうですね。まだ時間はあるので様子を見ましょうか」
しばらくすると、周囲を警戒していた騎士が馬車に乗り込み去っていく。見えてきたのはいわゆる地下に続く洞窟の入り口のようなポッカリ穴。
やっと自分の仕事が帰ってきたというように冒険者たちが遺跡の周りに集まり出す。
「騎士たちは帰ったね」
「そうですね。他の人たちは遺跡の中でしょうか?」
「……僕たちもいってみる?」
「そうですね。ゆっくり進んで早く出れば鉢合わせることもなさそうですし」
そうと決まれば中を覗きに行くしかない。
警備をしている冒険者さんに許可証を見せて遺跡の中へ入る。
冷たく、薄暗い遺跡の中。奥へ奥へと続いていく階段を下る。
進むにつれて道幅の狭くなる階段が恐怖心を煽ってくる。
シュン、シュンという摩擦音というか機械音も聞こえてくる──ん?
「機械音?」
「どうかしましたか?」
「いや、気のせいだと思う」
そんな考えは目の前に現れたモノで吹っ飛んでいった。
狭い階段を抜けて、開けた場所に出て最初に目にしたモノ──それは黒と黄色の階段を繰り出す装置。エスカレーターである。
「うーん。あまりにもオーバーテクノロジー」
どうやって維持しているんどこれ。電気が流れているということだろうか。色々調べてみたいところだ。
「この装置は文献で見たことがありますよ。確か動力源は魔力だったと思いますけど……」
「それほんとか?」
真偽はわからないが、何か裏がありそうだなその文献。
帰ったらアイラ様にも聞いてみるか。
手すりにつかまりエスカレーターの向かう先まで移動する。
「ライラさんやぁ。ほんとにここが遺跡なんですかー?」
目の前に広がる駅の改札口。すごく馴染みのあるものが立て続けに存在しているこの状況に混乱してくる。
暗く、文字が掠れてよく見えないが、路線図のようなもの、切符やICカードをチャージする券売機まで確認できるため写真に収めておく。
「そうですね。この遺跡は古代の地下施設がそのまま残った遺跡になっているようです。他にも、地上の建物が埋まっているケースや、街そのものが埋まっている古代都市型もあります。地下施設はこの二つと比較した時に、比較的安全であり、規模もそこまで大きくはないので初心者に優しいものになっていますね」
「めぼしいものでもあればいいんだけどねー」
券売機に近づきガチャガチャと触ってみる。液晶のモニターも暗い画面のまま特に反応はなく、ここには電気が通っていないみたいだ。この時代のお金でも手に入れられたらいいのだけど。
「これは何をするところなのですか?」
「この機械はね、電車っていう乗り物に乗るために必要な紙を買うものだね。簡単な許可証みたいな感じで」
「機械ってことは人はいないのですか?」
「そうだね。でも、この裏が駅員室になってるからもしもの時は人が対応してくれるよ」
そういえば駅員室には入れるのだろうか?
シャッターも閉まっておらず、窓枠は綺麗にガラスが外れているため、中に入れそうだ。
「ここの遺跡はあらかた掃除されてますから人骨とかはなさそうですね」
「人骨?」
「えぇ、遺跡からは集団生活をしていたであろう人骨が発見されることがあるんですよ」
何それ怖い──暗い
そんな場所だったっけ改札って。
「古代人は一日で滅んだらしいですからね。生活そのまま残っている場所が多いのですよ」
「一日で?」
「私も習っただけなので、詳しいことは分かりませんけど。人類はそうらしいです」
「ふーん」
想像し難いが、大変なことがあったんだな。きっと。
「それは魔王の仕業なの?」
「そうという人もいますし、古代人の寿命という自然消滅を唱える人もいますね」
「未知ってことか」
「はい」
まぁ、遺跡調査を続けていけばわかってくるかもしれないな。
駅員室の中に窓枠から侵入すると、空気のこもったような湿気た匂いがする。もともとは生活感で溢れていたでおろうが、今は物が無い寂しい空間になっている。
「近くで水漏れしてるのか?」
「? 近くに水辺はないですけど……」
この湿気は近くの水道管などの水の通り道が原因な気がするんだけどなぁ。
駅員室では券売機の裏側を見ることができた。スマホのライト機能を使って観察をする。
「っ! やっぱりそうか」
「どうしたんです?」
お釣りを補充するところだろう。一〇円、一〇〇円、一〇〇〇円と書かれたホルダーがある。ここで単位を表すのに用いられている文字はこの星で使われているものではなく、僕の故郷の星で用いられているものと一緒であった。
「もしかしたら、僕がここにつれてこられたのは何か意味があったのかもしれないな」
一等の僕がきた星には何か訳ありのようだ。それも僕達の星がらみの。
お釣りを入れるホルダーの斜め右下。ガムテープみたいに巻かれているそれに手を伸ばす。手触り的に切符のようだが、湿気のせいかくっついて塊のようになっている。
そのぐるぐる巻きの切符の奥、スマホのような強い光源で照らしたことでうっすらと何かが落ちているのを確認できる。
しかし、僕の手では入らないような細い隙間だ。何かいいものはないか……。
「これ使います?」
「ん?」
ライラが見せてきたのは冒険者ギルドで購入した骨つき肉の骨。
綺麗に肉をしゃぶり取られたその棒を受け取り、落ちてるソレを掻き出すように手前に寄せていく。
というか、途中から忘れてたけどよくこんな綺麗に食べたな。
指でつまめるほどに近づけたので拾い上げる。
「なんか可愛いですね。ソレ」
「……あぁ」
ソレは一つではなかった。
ちぎって正方形にして作ったのだろう。僕の手に乗ったお札で折られた六羽の鶴を見て、ライラがフワッとした感想を述べる。
「ライラ。ひとまず宿に戻ろう。少し考えたいことができた」
「──そうですね。収穫はあったようですし戻りましょうか」
元々すぐ切り上げるつもりだった一日目の探索。僕は心にモヤモヤを残したまま、遺跡を後にすることにした。
──ライラには見ることのできないほどのモヤモヤを残して。
新星人 〜一等引いたらファンタジー世界に飛ばされた〜 四喜 慶 @yoshipiro
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