第1.5章:遺跡調査編

第13話:遠征初日、前日はワクワクして寝れない。

 時は流れ、遺跡調査に旅立つ前日の夜。


 あれから、アイラ様から食事の際に詳細を聞き、目的地の場所、環境、宿泊場所などを聞いた。


 今現在、このまま目を瞑るだけでいいはずなのに、なかなかそれができないでいる。四日の時の流れは早く感じたはずなのにこの時間が長い。


 悶々としているだけの時間がどれほど生産性のない時間を生み出すのか。

 寝て次の日に備えようとする気持ちはあるんだけどなぁ。


「ライラ?」


 小声で声を掛けるも反応は無し。

 下のベットを覗くとすやすやと寝ているライラの姿がある。彼女はこれが二回目の遠征というらしいが、緊張はしないのだろうか。ベッドの側には準備したバッグが置いてある。


 今この教会で寝ていないのはきっと僕とアイラ様くらいだろう。いや、なんだかんだアイラ様も寝てるかもしれない。


 このままボーッとしていれば時間は過ぎていくだろう

 このまま──


「おはよう、シュウ。起きてたのですね」

「はい。寝付けませんでした」

「子供ですか、あなたは」


 呆れ顔のライラ。

 今日は早朝に出るため、そういうライラも少し眠そうだ。


「先日説明したように、朝食と昼食は馬車の中で食べますので、準備します。先に体を洗ってきてください」

「おっけー」


 そう言って食事を貰いに部屋から出ていくライラ。その間に手早くシャワーを浴びよう。


「シュウのバッグに空きはありますか?」

「まぁ、そこまで大荷物じゃないから全然空いてるよ」

「ならこれを入れてもらってもいいですか?」


 そう言って手渡してきたのは──服?


「今日の遠征は泊まりがけということで、本来であればケーナとマータが付いてくるのですが、遠征のスパンが短いため流石に連れていけないとのアイラ様からの判断がありました。そのため本来荷物は彼女たちに預けているから、いつものバッグでは入りきらなくて」

「なるほど。じゃあ預かるよ」

「助かります」


 今度はライラがシャワーを浴びる。大浴場はまだ使えないので部屋のシャワーだ。

 浴室から微かに鼻歌が聞こえてくる──ライラも楽しみにしていたのだろうか。


 準備は終わり、ライラを待つだけとなった僕は歯を磨いて時間を潰す。

 窓の外を見てみると、馬車が一台停められているのが確認できる。


「上がりました」


 ライラが浴室から出てきたので、急いで入れ替わるように洗面台へ向かう。

 長時間歯磨きしていたせいで口がパンパンであった。


「待ってたのですね。すみません、気づかずに」

「いや、僕が気づいたのが遅かっただけだから大丈夫」






 荷物を背負って教会の正面口に向かうと、アイラ様が玄関で一人待っていた。


「アイラ様? お一人でこられてどうしたのですか?」

「今日はシュウの初めての遠征ということで、激励を兼ねた忠告にきました」

「忠告?」

「はい。シュウ。出し惜しみをしてはいけません。眠れないくらい楽しみにしているのは知っていますが、無茶はいけません。初日は様子見程度がいいでしよう。それと頼れるものはなんでも使いなさい。コネクションも大切です。本来であれば、私がついていきたいところですが、私がいると目立ってしまうので──何かあれば教会に尋ねるのもいいでしょう」


 よほど僕たちのことを気にかけているのがわかる。確かに、遺跡には未知の危険があるかもしれない。アイラさもの言葉で眠気は吹っ飛んだ。気を引き締めて遺跡調査を行おう。

 ──なぜ眠れなかったことを知っているのかは聞かないでおく。

 


「ありがとうございます。頑張ってきますね」

「はい。ライラと助け合ってくださいね。二人とも行ってらっしゃい」

「「行ってきます」」



 馬車に揺られること数分。窓を小さく開けて心地よい風がキャビンの中に入り、先ほど吹っ飛んだ眠気が帰還してきた。

 ──これが帰巣本能。


「寝ぼけたこと言ってないで、少し寝ててもいいですよ。キャビンは広いですし、横になっても大丈夫ですよ」

「お言葉に甘えて……」


 僕の意識はその言葉を残して途切れた。



 どのくらい時間が経ったのだろうか、ふと物音が気になって顔を上げると、隣でサンドイッチを頬張ろうとしているライラと視線が合う。


「もう起きたのですね。お腹が空いたので食事をとっていたのですが、シュウも食べますか?」

「もらおうかな」


 寝ぼけ眼を擦りながら、起き上がるとバスケットから取り出したサンドイッチと膝掛けするランチョンマットのようなものを受け取る。


 パンは硬いが、野菜や卵、薄くスライスされた肉といった具材が美味しい。

 量としては少ないような気がするが、大満足だ。


「僕、どのくらい寝てたのかな?」

「小一時間ほどですよ。今は街を抜けて、すぐの草原を走っています。目的地である遺跡を保有している街に直線で向かっているというよりは、道を選んで進んでいるので、少しだけ距離としては遠回りですが、こちらの方がスムーズに行けますね」

「ライラも今回の遺跡は初めて行く場所なんだよね?」

「はい。ですが手続きなどは教会の方で行ってくれたみたいですし、アイラ様から説明された流れを理解できていれば十分ですよ」


 確かに遠征にあたっての手解きは行われたし、調査に集中してくれさえすればいいとは言われたけれど、至れり尽くせりされればされるだけ、もどかしさがやってくる。客人扱いをずっとされているような。


「そんなことないですよ。アイラ様は他のシスターに対してもいつもこんな感じですし、お世話をするのが好きなのですよ。この前二人で話した時にも言ってました。男性の好きそうなものはなんでしょうか──それとなく聞いておいてくださいとも言われていましたし」

「それ、僕に言ってもいいの?」

「シュウが不安に感じる方がよくないと判断しました。ですが、アイラ様には内緒ですよ」


 それだけ知れれば満足だ。気分も軽くなるし、全く知らなかったアイラ様情報をゲットできたので十分だ。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わったので外の景色を眺めておく。ついでに、玲に送る用の写真もいくつか撮っておきたかったのでちょうどいい。

 マッピングも順調にされているようだ。現在地が少しずつ動いているのが分かる。


 横から覗いてくるライラにも慣れた。おっかなびっくりと言った感じではなくなり、遠慮なく覗いてきている。


「このスマホは他にもできる機能があるのですか?」

「そうだね、メモ機能とか、使ってないけど目覚まし機能とか、他にも機能は増やすこともできるけど、この星の生活の方に順応したいから必要を感じない限り増やすことはしないかな」


 事実、アプリストアからダウンロードすればゲームだって入れられるけど、容量をそこに割くのはもったいないし、第一、別の星でクラスにあたっては不要であろう。


「そうですか、見てみたい気もしますが、しょうがないですね」

「そう言ってくれると助かるよ」


 目的地まで穏やかな時間が流れる。

 隣のライラも目を瞑っている。朝から眠そうにしてたしな。


 僕はスマホでスキャンして保存しておいた、この星の言語で書かれた絵本を読んで勉強をしておく。


 しばらくして、肩にが乗っかってきたが、一瞥だけして再度勉強へと向かう。

 ちょっとした気遣いで、体を動かさないように右手だけでブランケットをかけてやる。


 見える景色も変わってきた。草原だけの景色から人工物がチラホラと見え始める。そろそろお昼時であるため、ライラを起こすために軽くゆする。


「寝てしまいました──あぁ、掛けてくれたのですね。ありがとうございます」

「いや、気持ちよさそうに寝てたし。起こすのもどうかと思ったけどお昼時だから起こそうかなって」


 顔を上げて目を擦るライラ。まだ頭が回ってなさそうだ。

 ずっと座りっぱなしだったので、ゆっくり立ち上がり、体を伸ばす。

 ライラもそれに倣うように伸びをする。


 今回はノンストップで向かうということで、休憩を挟むことはしないらしい。

 この馬もよく疲れないな──あぁ、ドラゴンより強いんだっけ。

 そんなことを昼ごはんを食べながらふと思う。


「もうすぐ目的地の街ですね」

「そうか、ここが……」


 冒険者の街、アルドル。

 この街には工場のようなものがあるのだろうか。遠目から煙突のようなものが見える。


「あれは鍛冶屋とか加工屋ですね。煙突が黒色の建物はそういった武器や防具の生産、加工を主に取り扱う鍛治専門のギルドの所有する建物になってます」

「そうなのか。組織化がしっかりしてるんだな」

「そうですね。冒険者ギルドが親組織として統括しており、その中で法律とは別に規則が設けられています。唯一のといえる冒険者ギルドは子供たちの夢の職業の一つですね」

「すごいんだな」

「一方の商会や、商業ギルドなどと呼ばれる組織は個人やそれぞれの国が運営している場合がほとんどですね」


 ──冒険者ギルドが国際組織ということは、もしかして、魔王対策のために建てられた組織ということか?


「まぁ、そういう用途もありますね。国の軍は戦争や災害などで出動しますが、冒険者ギルドはモンスターなどを相手にすることが多いという違いがあります」

「今日はそのギルドに向かうんだよね?」

「そうですよ、遺跡の管理も冒険者ギルドの管轄なので許可証を取りに行かなければいけません」


 

 審査に通った組織しか遺跡に入ることが許されず、教会はもちろん国も遺跡調査の際は冒険者ギルドの発行する許可証が必要になるみたいでしっかりしているなと感じる。


「遺跡調査のガイドラインは見ましたか?」

「正当な理由がない限り、破壊行動などの危険行為や遺跡の保存に対する侵害行為を禁ずるとかのやつでしょ?」

「それです。覚えているならよしです」


 馬車が止まる。どうやら目的の街に着いたようだ。門番が御者と少し話すと、再び馬車が走り出す。


「教会の紋を見せれば通されることがほとんどですね。教会も国を跨いで存在してますから遠出する時も楽ですよ」


 そうか、教会も国際的な組織だよな。だから冒険者ギルドを唯一のと言ったのか。

 そういえば他に女神はどのくらいいるのだろうか。


「小さいものを含めるとたくさんいますよ。その話はまた今度。もう着きますから荷物を纏めましょう」


 着いた場所はアイラ様を崇める教会の支部。ここに馬車を止めて、教会が運営しているという宿まで徒歩で移動するという。


 ステップを降りると、小さくはなっているもののアイラ様の教会とわかるような真っ白な建物が出迎えてくれる。


「それでは、荷物を預けに宿まで行きましょうか」

「オッケー」


 教会のすぐ裏にあるということなので、二人で向かう。

 

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