第14話:冒険者は憧れである。
部屋に着いて、荷物を降ろす。ベッドも二つあってかなり広い部屋だ。
「──もしかして同室?」
「嫌なんですか?」
「そういうわけじゃないけどさ」
「ならよしです」
なんかライラがかなり遠慮なくなってきた気がする──まぁ、いいことなんだろうけど。僕が無事に無害な男認定されたのだろうか。
バックの中のものをベッドに出して、再び背負う。
それだけして、鍵をかけて宿を後にする。この宿の管理も教会がやっているようなので安心して出かけられる。
許可証を取らないことには始まらないため、着いて早々、冒険者ギルドに向かうことにした。
教会のある通りと同じ通りに冒険者ギルドもあるみたいだ。
「ここがメインストリートですからね。鍛冶屋も加工屋もこの通りにありますよ」
冒険者ギルドはいかにも戦えますよといった筋骨隆々のお兄さんお姉さんの集まりなのだろうか。
「まぁ、そういう人もいるとは思いますが、魔法使いも一定数いますし、魔法使いは機動力を重視する傾向がありますから、筋肉をたくさんつけることを避ける人が多いですね」
「なるほどね。確かにそっちの方が強そうだ」
「見かけによらないんですよ。強さは」
冒険者ギルドの前に着く。親組織なだけあってかなり立派な建物だ。木とレンガでできたその建物の正門には、門番おり、通行人を真っ直ぐ監視していろ。
治安が悪いというわけではないと思うが、それでも警戒を怠らないのはさすが国際組織といったところか。
「まぁ、気にせずにいきましょう」
「おっけー」
門番はこちらを見るもライラの首から下げている教会の紋章を象ったペンダントを見るなり視線を正面のメインストリートへ戻す。
門を開けると、中央に弧を描いたような大きいカウンター。その横には別の受付のようなものがいくつか設けられている。周りにはテーブルや椅子がカフェのように並べられており、皆飲み物を片手に談笑したり、穏やかな空気が流れている。
しかし、腰や背中、壁にかけられた武器が彼らを戦士であると認識させる。
「すごいな。みんな歴戦の猛者みたいな格好してる。にしても人な穏やかすぎないか?」
「主な理由は二つですね。まず一つは冒険者という職業の平均的な寿命が短いこと。衰えを感じたら引退する人が多いですからね。すぐ引退できる理由にも繋がってきますが、二つ目は、人数を絞っているということですかね。無理に競争させない。基本的に冒険者は依頼を受注する側ですから、母数が多くなると取り合いになってしまいます。あくまでギルドの職員。仲間ですのでそこに競争心は要りません。常設の依頼もありますし、ギルド側や依頼者から直接冒険者を指名するケースも多いですし、ギルド側がうまく連携をとっていることでそれぞれに依頼を回すことができているのです」
なるほど。国際組織というだけあって世界中から依頼が集められるのだろうか。
「依頼先の場所によって、国関係なく比較的距離の近い複数のギルドに出しているようです。早く解決することが一番ですからね」
確かにそれは大切なことだ。職場の環境がいい冒険者ギルドは少年少女たちが憧れるだろうな。
「基本的に張り出される依頼は周りに顔を覚えてもらう目的も兼ねて、新人が優先とも聞いたことがあります。そこから指名依頼をもらうこととかもあるようです」
「ここに就職したいな」
「何いってるんですかあなたは」
まぁ、教会で学園に通わせてもらってる身が何をいってるんだって話なんだけどね。
「中央の受付が空いてますのでいきましょうか」
受付嬢から、遺跡の扱いや許可証の有効期限についての説明を受ける。かなり話の内容がわかるようになってきた。ライラのテレパシーからの卒業も近いかもしれないな。
内容自体は、アイラ様から聞いたものとだいたい同じだ。
受付嬢から手渡された許可証はかなり硬いカードだ。素材が気になるところだ。
ポケットにそのまましまう。
話が終わり、少しギルドの中を見て回ることにした。
外観では想像できないくらい広い冒険者ギルドは、中に飲食を買うことの出来るスペースがあり、冒険者達はそこで買ったものを片手にテーブルを囲んでいるようだ。
「少し買い食いしちゃダメ?」
「お昼食べたばかりですよ。お腹すいたんですか?」
「まぁ、どんなものがあるか気になったから」
財布の紐を握るライラにおねだりするのに恥じらいは無くなった。
これも調査の一環である──そう割り切った。
「少しくらい恥じらってもいいのですよ? まだ働いてないのですから」
「うぐっ」
ライラのような純粋な心の持ち主に面と向かって言われると少しだけ心に刺さって痛い。
呆れ顔のライラはそれでも、一品だけと言ってお金を出してくれた。ダメ人間になりそうだ。
顔のサイズ程の大きな骨付き肉を頬張っていると、デーブル席にいる冒険者達がチョイチョイと僕達を呼んでいるのが見える。
屈強そうなお兄さんもいたのでスルーせずにそちらへ向かう。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、余計な心配かもしれねぇけどよ。俺たち、お前さん達が潜る遺跡の警備を定期的にしてんだよ。明日もするんだけどよ──なんか困ったことあったらすぐに言うんだぞ」
「あっ、ありがとうございます! 助かります」
傷だらけの屈強そうな兄貴の口から出てきた言葉がこんな優しいものとは思わず、警戒してしまった自分が恥ずかしい。
「まぁ、教会の嬢ちゃんがいるなら心配ないだろうけどな!」
そう言って、ゲハゲハと笑う冒険者の一味。ここにきて僕の想像していた冒険者らしい野蛮な感じがでてきた。
というか、教会の嬢ちゃんってライラのことだよな?
ライラを見るも首を傾げられてしまう。
細い腕に日焼けとは無縁の白い肌。手入れを欠かさない綺麗な髪。ぱっちりお目目に、艶やかな唇。そして──
「褒められるのは気分がいいですが、時と場所を考えてくださいっ」
強い蹴り。体幹がしっかりしているとみた。
彼らのいう通り、ライラがいれば心配ない気がしてきた。
「彼らが言ってるのは魔法のことですよ」
「魔法? 心読む以外のってこと?」
「はい。私はこれでも教会の中でも優秀と言われるほどの魔法の使い手なんですよ」
「へぇー」
まるでピンと来ない。魔法は未知の文明のため、実際に見ないことには規模が掴めない。
手品のようなものを魔法と言われたら、鼻で笑ってしまいそうなものである。
「おいそれとは出来ないですよ。危ないので」
「危ないの?」
「まぁ、地味なものもありますけど。心象魔法以外に」
「どんなのよ?」
「それは後のお楽しみにしといてもらいましょうか」
わかったぞ。ライラは舞台を整えてから「どうぞやってください」と言うと萎縮しちゃうタイプだ。
「違います」
「違うか」
骨付き肉を頬張りながら返事をする。食べながらは失礼だと思うが、冒険者らしい振る舞いなのではないだろうか。
郷に入れば郷に従えよろしく、冒険者ギルドに入れば冒険者に従えである。
「品が無いのでやめてください」
「一口いる?」
「……後で貰います」
ふむ。さすがにこの肉の撒き散らすジャンキーな香りの前にはライラも屈するか。
「なぁ、お前さんたち一体どんな関係だ? これは深く聞かない方がいいのか?」
ゲハゲハと笑っていた冒険者達から向けられる好奇の視線。勇者であることは言えないため、ライラに任せることにする。
「彼は私の遺跡調査に着いてきてくれる従者のシュウ。私はライラと申します」
「へぇー、従者ねぇ。弱そうだけど──もしかして強いのか?」
なんだろう。こっちを見る目がキラキラしてる。期待を裏切りたくないなぁ。一応、勇者やってますとか言えたらいいんだけどなぁ。強いですって言ってみたいなぁ。
「いえ、彼は荷物持ちのようなもので。戦闘面ではあまり期待してないのですよ」
「はぁー、なるほどね。確かに荷物もちは大切だぁ」
少しガッカリとした目を向けられる。解せぬ。ライラも睨まないでよ。
「あんちゃん。荷物持ちはなぁ。体力がねぇと役立たねぇ。そして機動力も。何より背負ってるもんがあると、自分の後ろが疎かになりがちだ。気ぃつけるんだぞ」
「わかりました。頑張ります」
再び優しい言葉をかけられる。強面から言われるとほっこりする。
「まぁ、教会の嬢ちゃんがいるなら心配ないだろうけどな!」
そう言って再びゲハゲハと笑い出す冒険者。
さっきも同じこと言って笑ってたぞ。
──さすがに周りの冒険者は笑ってなかった。
冒険者ギルドを後にした僕達は、日没までまだまだ時間があるため、肉を頬張るライラと遺跡近くまで散歩に行くことにした。
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