第7話 プロの「仕事」
山上先生は、プロの「紙芝居師」では、ありません。
これは決して、山上先生のお仕事を卑下して申しているわけではない。
山上敬子さんという方は、養護施設という職場における「保母」としてのプロであって、その職業における業務の一つとしての日中保育の、さらにその一環の中に位置づけられる「紙芝居」を、演じてこられたのです。
私は直接見聞きしたことはありませんけれども、終戦直後のそれこそ、黄金バットなんかをお菓子を売りながら演じていた紙芝居のおじさんたちのような「仕事」とは、山上先生の紙芝居は一線を画したところにあることは確かです。
しかしながら、いくら役割が違うとは言えども、山上先生の紙芝居もまた、子どもたちに喜びと夢と希望を与えるものであり、それは一つの「プロの仕事」というべきものである。
そのことに、私は気づかされました。
実は私、先ほども申し上げましたが、前に一度、山上先生の紙芝居を拝見したことがあります。
昨年3月、よつ葉園を定年退職される際、最後の紙芝居をされたときに、取材ということで、ラジオ局のアルバイトと、それから以前からの友人の一人でもある海野たまきさんのおられる新聞部の取材の手伝いも兼ねて、よつ葉園の集会室でしたか、そちらで拝見しました。
山上先生の紙芝居については、かねて、父より聞かされておりましたけれども、見ていて確かに、自分が子どもの頃の記憶をたどっても、ここまで印象的な紙芝居を見た経験はありませんでした。
同世代の大学生や短大生の知合いで、ボランティアで子どもに紙芝居を披露している人も何人か知っていますし、現に拝見したこともあります。あいにく男子学生の演じる紙芝居は見たことがなく、その数少ない事例のすべてが女子学生によるものでしたけれども、彼女たちの紙芝居とは、比べるのも失礼なほど、山上先生の紙芝居には、大人でさえも引込まれていくほどの力がありますね。
以前よつ葉園で山上先生御本人から私に、同じようにこの紙芝居をやれますかと聞かれましたけれど、とてもではありませんが、私には無理ですとしかお答えのしようがありませんでした。
仮に同じ絵を使って、こちらの木枠をお借りして、さらに、同じように紙芝居を読んでいくとしましても、もちろん、それに幾分の色を付けた話にするとしましても、私には、山上先生と同じか、それ以上の何かを、聞いている皆さんに御提供できるとは、到底思えません。
ぼくのような「アマチュア」未満の者が、百戦錬磨の「プロ」には到底勝てるわけもありません。
それはなぜかと言いますと、単に長年されてきているからというだけでなく、この紙芝居という場にいる人たち一人一人との出会いを、心の底から喜び、そしてありがたいものという思いをもって、山上先生が真剣に演じてこられた積み重ねがあるからこそではないかと、私は、思っています。
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