第14話 吉村保母のスピーチ 3
私自身の職務としてだけなら、昔も今もほとんど変わらず、幼児の保育が中心でして、さほど年長の子らと多く接触するわけでもありません。
ですから、そちらの方については多くを語れるわけでもないと言えばないです。
しかしながら、ちょくちょく中高生の年齢の子らと話していて思うのは、私がこのよつ葉園に就職した頃以上に、社会性への関心が高まってきているなということにつきますね。
私自身は就職前のことはわかりませんが、かつてよつ葉園では、「全人会」という組織を子どもたちに作らせて、それで、いろいろやっていた時期があったと聞いております。後に昭和54年頃にもそれを再開しようという動きがありましたけれども、短期間のうちに、自然消滅のような形になりました。
昔に比べて、今の子どもたちは、それぞれすることがたくさんあって忙しいようですね、大人並か、ひょっとするとそれ以上に。
そんな時代に、昔よつ葉園でやっていたようなことをまたやろうとしてみたところで、結局は元の木阿弥になっていつの間にやら消えている、なんてことは、案外多いものです。
それがいいのか悪いのかは、私自身には判断つけかねます。
でも、今はそういう時代なのです。
今の時代にあったことをしていかないと、取り残されていくだけです。
もちろんまれには、その古きよきものとやらが脚光を浴びることもあるかもしれませんが、その方がむしろまれだと思っていていいでしょう。
まとまりがなくなってきましたので、このあたりで終わらせてください。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
吉村保母がマイクを山上女史に返し、自席に戻ろうとした。
そこで、山上女史は彼女にそっと耳打ちするかのように依頼を出した。
「吉村先生、もう少し待って下さる?」
「え? 何かまた?」
「これから、皆さんの質問を受けたいと思うので、ぜひ、答えて差上げて」
「そうですか、わかりました」
山上女史がマイクをもって、出席者たちに問いかけた。
「皆さん、今日は吉村先生がお越しくださっています。皆さんの中にはよつ葉園を御存知の方も多いと思います。どうか、今のよつ葉園について、あるいは子育てのことでもいいです。質問のある方、どうぞ、吉村先生に質問してみてください」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
意外な展開になって来たが、このような質問を受ける時間はたいていの会でも受けられるので、出席者各位も別に不思議には思わないし、特に面食らっている様子もない模様。
ほどなく、一人の年配の女性が手を挙げた。
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