第13話 吉村保母のスピーチ 2
ところで、今のよつ葉園の全体的な方針と言いますか、仕事の流れと言いましょうか、その方向は、これまで以上に「社会性」をしっかりと身に着けさせるというその一点に絞りがかかっている感じです。
これは、園長の大槻の方針によるものす。
入所児童、つまりよつ葉園にいる子どもたち、それも中学生や高校生の子らが、社会に出てきちんと税金を払っていける力のあるように。もらうにしても、それが公務員のような仕事であれ、会社を興して補助金や助成金を使うのであれ、うまく行かず、仮に生活保護を受給するような状態になってしまったとしても、そのお金を社会のために有効に使えるように。もちろん、自分で稼いだ金であっても同じなのですけど、ただただ、自分だけ、よくてもせいぜい家族程度がよければという次元ではだめだということ。大槻本人はそこまで踏み込んで言うことはありませんけど、日ごろの職員会議や朝礼などでの言動を見聞きするほどに、明らかです。
これは決して、前任の東航元園長さんや山上先生のような年長の元職員さん方がされてきたことを否定するわけではないと思います。そう思いたいです。
しかし、改革に大いに前のめりになっている感の強い大槻のその方針を見て、一部の職員の間に不満のようなものと言いますか、置いてけぼりにされていくような疎外感を抱いている職員も、いないではありません。
特に、男性の児童指導員を増やして、女性職員もできれば大卒の児童指導員をという採用方針を打出していて、年長の子どもたちに方向性をきちんと与えていかねばという意識が、この数年来、強いですね。
そうなってきますと、どうしても人件費がかかるようになります。
私のように短期大学を出て、子どもたちのための仕事がしたいという思いの女の子と言っては難ですけど、そういう子らの雇用をある程度抑えてでも、大学出の児童指導員を増やし、男女とも、特に男の子への対応に、力を大いに注ぐようになってきました。
それは、大槻自身が現在高校生と小学校の高学年の息子さんがいるということも影響しているような気がしますね。
自分の息子がこの施設にいて、こんな対応をされたら、親としてどうか。
その意識が、上の息子さんが大きくなるにつれて、強くなってきているような気がします。
うちの息子はどうにでも持っていけるが、よつ葉園の子らは所詮他人の子に過ぎないから、まあ適当でええというくらいの気持ちがどこかにあれば、今のような方針を掲げて大きく動くなんてことはないのでしょうけれど、やはり、敷地内の職員住宅で、元児童指導員の女性と結婚されて、息子さん2人の家庭を営んでいるとなれば、そりゃあ、意識もそこに行くでしょうね、と。
さすがに子どもの前や若い保母らの前では申しておりませんけれど、男性の児童指導員各位の前では、これまでよつ葉園がやって来たような、特に先代の東園長の時代のようないい加減な対応ではだめだと、しきりにはっぱをかけているようですね、現に。私の前でも、かなりオブラードに包んではおられるけど、やはり、そのことを意識してやっているのだと、非公式ながらも、しきりに言っております。
こんなところで愚痴のような内部批判につながりかねないようなことを言うのも難ですけれど、これは決して批判というわけではありません。
私個人としては確かに津島町にあった頃のよつ葉園が懐かしいという思いもないではありませんが、今大槻が進めている「改革」というのは、単に岡山の一養護施設の問題ではなく、社会に求められているものだということは、確かですね。
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