第12話 吉村保母のスピーチ 1

「山上先生、御無沙汰しております。吉村です」

「お久しぶりです、吉村先生、突如お呼び建てしてごめんなさい。どうかひとつ、最近のよつ葉園の様子について、お話ししていただけませんか。お願いします」

「先生がおられた頃よりも、おやめになってからのお話で、よろしいですか?」

「ええ、ぜひ」


 少し打合せのような挨拶を交わし、吉村保母は木枠の横という「壇上」に立ち、マイクのスイッチをオンにして語り始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 皆さんこんにちは。

 こんな前から、突如現れたにもかかわらず、失礼いたします。

 私は、山上先生の後任で、養護施設よつ葉園の保育主任を担当しております、保母の吉村静香と申します。現在、小学校低学年と入学前の子らの母親でもありまして、夫と家事を分担しあいながら、時には夫や私の両親、子どもらからすれば祖父母の助けも借りて、私生活でも子育て真っ最中です。


 私は短大を卒業してすぐ、よつ葉園に保母として就職しました。

 基本的に私は年長の子どもたちの担当ではなく、幼児担当と日中保育の仕事を中心にやってきました。

 現在は、山上先生の後をついで、よつ葉園の主任保母として勤務しております。

 私生活でも仕事場にいる子と同じくらいの子の世話、仕事でも、やっぱり子どもの世話と、もはや、小さい子の相手だけで、朝から晩まで、そんな感じですね。


 皆さん、保母さんという仕事は、子どもが好きな女性がなるものと思われている向きがあるかもしれません。私は、その範疇に入るでしょう。

 ですが、子ども好きだけで務まる仕事でないことも、確かです。


 子どもって、大人が思っているように動いてくれるわけではありませんよね。

 誰一人として、同じ子はいません。

 大人も顔負けの子どももいるかと思えば、普通に子どもらしい子ども、このままで大丈夫だろうかと思えてならない子もいます。

 これが工場の生産ラインの仕事のようなものでしたら、普通に子どもらしい子どもに照準を合わせて、そのようなふるまいをする子どもをひたすら「生産して」いけばいいようにも思いますけど、そんなわけにはいきません。

 とはいえ、やっぱり、養護施設における保母の仕事というのは、どうしても、そのような方向に行ってしまうようなところができてしまうのです。

 ですから、最近は昔子どもたちを集めてやっていたような行事は、大槻園長の方針もありまして、大幅に縮小の傾向にあります。


 確かに、幼児の担当ゆえに難しいこともたくさんありますが、これが小学生以上の学童、ましてや中高生の、それも男の子なんかの担当となれば、短大を出てすぐの保母の手におえるものではないと言われますけど、間違いなく当たっています。

 それだけではだめなので、男性の児童指導員という幹部職員も一緒に、あるいは直接対応するようにしています。

 そろそろ社会に出て独り立ちしていかなければいけない子どもにきちんとしたものを与えられるだけの仕事もしなければいけないのが、養護施設という場所での職員の大きな役割の一つなのです。

 

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