大人のための保母さんに
与方藤士朗
第1話 プロローグ ~大人相手の保母として
1985(昭和60)年11月中旬のある平日の午後のこと。
「御免下さい。山上敬子さんはいらっしゃいますでしょうか?」
岡山市中心部にある山上印房という老舗印鑑店に、初老の紳士がやって来た。
「はい、私ですが」
彼女はたまたま、店内にいた。
彼女の夫は、印鑑などの作成に忙しいため、彼女は店番をしているためだ。
「私は、津島町公民館の永田と言います。この度は、よつ葉園で長年にわたって保母として活躍してこられた山上先生に、ぜひ、保母のお仕事を一つ、していただきたいと思いまして、こうして、お願いに上がった次第です」
津島町公民館館長の永田正雄氏は、元小学校教師で校長まで勤めたのち、定年を機にこの公民館に館長として赴任している。
永田氏は、山上元保母に、その「仕事」の内容を話した。
「要は、子ども相手ではなく、昔の子ども、ですね。大人相手に、山上先生の保母としての経験を十二分に生かしていただける仕事をしていただきたいのです」
彼女は、その依頼を受けた。
かくして、津島町公民館で新たな「保母」としての仕事を始めることになった。
これが、月に2回ほど行われるこの公民館の人気講座となって久しい。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
それから約1年経過した、1986(昭和61)年7月初旬の日曜日。
この日も、いつものように山上保母の講座が開かれることとなっている。
しかしこの日は、意外な「受講生」がやって来た。
よつ葉園の元嘱託医の次男の大宮哲郎氏と、その息子と交際相手の女子学生。
もっとも息子夫婦については、O大学の新聞部とアルバイトで通う××ラジオの「取材」を兼ねたものである。
山上保母にとって、哲郎氏は若い頃、それも彼が小学生の高学年の頃から知っているが、息子とその交際相手の女性とは、1年前のよつ葉園で取材に来た時に顔を合わせて以来である。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
この日も、暑い中、いささか年配の女性が何人かやって来た。
その中には、如何にも子育て中と思われる若い女性の姿もある。
エアコンが十分聞いており、室内は実に涼しい。
しかし、日当たりもよいため、ブラインドは閉められている。
主催者代表の挨拶の後、山上保母さんの「紙芝居」が、はじまった。
・・・・・・・ ・・・・・ ・
https://kakuyomu.jp/works/16817330653367905859
↑ 老保母の生甲斐・新たな「仕事」
本作の前編は、こちらの作品群です。
つまり本作は、この続編としての位置づけです。
こちらも合わせてお読みいただければ幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます