第3話 新しい絵の紙芝居で、昔のように。
「それでは、本日の最初の物語は、「桃太郎」からです」
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山上保母がよつ葉園で行ってきた紙芝居は、街中のプロのおじさんたちがやっていた「黄金バット」のように居並ぶ子どもたちをわくわくさせるものではない。
よつ葉園の大槻園長はその「黄金バット」の紙芝居が流行った世代であり、現に幼少期を過ごした田舎でその紙芝居を見たことはあるが、彼は野球に興味を持ち、赤バットの川上哲治にあこがれていた。そんなこともあってか、彼はこの紙芝居に他の子らほども熱狂していたわけではなかった。その分、ラジオから聞こえる野球中継、とりわけ川上哲治の打席に、いつも熱狂していた。
さて、この山上保母の紙芝居、「教育紙芝居」というジャンルに該当するものであるとご理解いただければよろしかろう。
言うならば、土曜日の19時から放映されていた長寿アニメ番組「まんが日本昔ばなし」を紙芝居でやっていくようなものというわけである。
かの長寿番組を軽々と吹っ飛ばすかのように一世を風靡した武内直子氏原作のアニメ「美少女戦士セーラームーン」が放映され始めて後、子どもたちはかつての黄金バットの紙芝居になびいた祖父母世代の子どもの頃のように、チャンネルをこちらに合わせることが多くなったと言われている。
それは、子どもたちだけではなかった。その頃大学を出たばかりの若い男性らにさえも、そのアニメに夢中になる者が続出していた。大槻氏はともかく、その息子世代で元よつ葉園入所児童の米河清治氏も、その若い男性の一人であった。
閑話休題。
黄金バットやセーラームーンのように熱狂をもって子どもたちや一部の大人を巻き込むような力はないものの、山上女史の紙芝居は、静かに、しかも淡々と、その場にいる人たちの耳目をつかんで離さないような力が、ある。
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桃太郎の紙芝居は、淡々と進み、鬼退治をして凱旋した桃太郎の姿を語ることで終わった。特に話を盛ったり、小細工をしたりも、ない。
桃太郎が終われば、今度は、笠地蔵。
こちらも、新しい絵で構成された紙芝居である。
「情けは人の為ならず」
そのことわざを地で行くこの話を、老保母は静かに、ときに力を込めて、言葉を紡いでいった。
紙芝居を2作終えたところで、彼女は、一息入れる。
そして、かつてよつ葉園という養護施設で経験したエピソードを軽く話す。
突如、山上女史は出席者の一人を紹介した。
「今日は、私が若い頃からよつ葉園の紙芝居を見てこられた方が、その息子さんとそのご友人の方がお越しくださっています」
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