第8話 プロの「仕事」 2

「太郎君、いえいえ、大宮太郎さん、ありがとうございます」

 一通り感想を述べた太郎氏に、山上女史は礼を言った。

「それでは、今度は折角ですので、海野たまきさん、どうぞ」

 指名を受けたたまきさんは、先ほど太郎氏がたっていた木枠の横にやって来た。

 そしてマイクを握り、話し始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 皆さん初めまして。O大学新聞部の海野たまきです。

 私も、大宮太郎君と太郎君のお父様の御紹介により、昨年の春、養護施設のよつ葉園で初めて山上敬子先生にお会いしまして、紙芝居を「取材」致しました。


 先ほども太郎君が言っておりましたけど、山上先生の紙芝居は、誰でも知っているお話を、誰でもできそうな感じで、淡々と、お話が進んでいきます。


 そこだけ取れば、真似してやってみろと言われれば、私でも、できないこともないでしょう。

 そうですね、私の故郷の北海道の函館市の、私が太郎君と知合った病院でもいいでしょう。入院している子どもたちを相手に紙芝居をするよう依頼されたとしましたら、私も、できないわけではありません。

 それこそ、山上先生の紙芝居を見て、それを真似てやれば、いきなりやるよりは子どもたちの前でうまく演じられるとは、思います。


 しかし、これは太郎君に限らず、以前よつ葉園に来られて山上先生の紙芝居を見たという元実習生の方々や保母さんたちの御感想をお聞きする機会のあった方々は皆さん一様に、あの紙芝居は自分たちには演じきれないと述べておられました。

 そう言われてみれば、確かに、その人の表面だけを見て、自分もやってみれば同じくらいのことができるのかと言われると、それは実際、無理筋な話でさえあることに気づかされます。


 遊びで野球をするというなら、ある程度、誰でもできるでしょう。見て楽しむことであれば、なおのことです。しかし、それをトップレベルでプレイして、ましてお金をもらってやっていくとなれば、よほどの鍛錬を積まないとできませんよね。


 そんな山上先生の紙芝居ですけど、確かに、私の両親や太郎君の御両親の子どもの頃の紙芝居師の方々のように、子どもたちが喜びそうなストーリーで、それこそ水あめか何かを売りながら、しかしその場にいる子どもたちを熱狂させるようなことはありません。


 それを言うなら、紙芝居師のおじさんたちは紙芝居という仕事の「プロ」です。

 山上先生の紙芝居は、それから比べれば、「アマチュア」です。

 これは大変失礼だとは思いますけど、山上先生のお仕事は「紙芝居」そのものではありませんから。

 趣味とは言いませんけれども、あくまでも、仕事の中の一つですからね。

 ですが、紙芝居そのものではなく、「保育」という仕事での「プロ」ですから、やはり、単なる素人の大学生あたりがかなう仕事じゃ、ありませんよね。


 とはいえ、山上先生の紙芝居は、私たちのような若い学生にとっても、色々なことに気づかせてくれる、素晴らしいお仕事であると、私は思っています。

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