三国志英雄伝説~呂布奉先伝~
みなと劉
第1話
三国志英雄伝説~呂布奉先伝~
俺、呂布奉先は悩んでいた。何に悩んでいるかと言うと……そう! 俺は今や大陸の覇者となった訳だが、そのおかげで天下無双の英雄として名を馳せているのだが……。
「うーん」
しかしそれでは駄目なのだ。
だってそうだろ? もし仮に俺が大陸全土を統一してしまったらどうなると思う? そりゃあ平和な世の中にはなるだろうさ。
だけどそんな世界じゃつまらないだろ? せっかくこの世に生を受けたんだから色々見てみたいじゃないか。もっとワクワクする世界を! だから俺は考えたのだ。俺がいなくても成り立つ国造りをしようと。
例えば、劉備玄徳のような人物をリーダーとする蜀という国を作るとか。まぁそれは無理があるかもしれないけど、それでも良いんだよ。ただ単に天下無双で終わりたくないだけなんだから。
という事で、まずは俺が死んでも国が残せるようにしなくてはならないんだけど……これがなかなか難しい。何故なら天下無双の俺が死ぬという事はそれだけ敵がいるという事でもあるからだ。そして、その敵の大将というのは大概が曹操だったり、あの袁術であったりして中々倒せない。特にあの曹操は狡猾だし油断ならない奴なので簡単には勝てない。
ならばいっそ天下統一など考えず、自分がいなくなってもやっていける国にしようかなとも思ったりしたが、やはり自分の力で征服した方が楽しい気がするので諦めた。
そこで思い付いたのが、天下無双の俺よりも強い人間を探すって方法だ。
天下無双である俺より強いんだから当然天下人に相応しい器の持ち主だと思えるのだが、これまた問題がある。天下無双の俺より強い人間はそうはいない筈なのに天下人がいないのだ。しかも何故か漢には一人しかいない。つまりは董卓だ。……うん、確かに凄く悪い事をしているよな。でもしょうがないじゃん! 他にいないんだもん! それにあれだよ、悪逆非道なのは董卓だけだし、他の人は普通にしてれば問題無いしさ。
そういう訳で、とりあえず探す事に決めたのだが問題はどうやって見つけるかって事なんよね。だって、俺を倒した事がある人なんてもういないんだぜ? そりゃあ勿論、俺が生きている間に見つからない可能性の方が高いとは思うよ。
そもそもの話、俺を倒してくれるような人が早々いるとは思えないしね。でも逆に言えば俺を倒すくらいに強い人間が一人でもいるのであれば俺の後を任せられるんじゃないだろうか? 俺が死んだ後であっても俺の遺志を継いでくれる者がいたとしたらこれほど嬉しいことはない。……とまぁ色々と偉そうなことを言ってみたけれど、ぶっちゃけこれは建前であって本音は単純に楽したいだけである。だって面倒臭いじゃん。
いちいち相手するのがさ。でも俺に勝つ程の強者がいて、かつ俺の死後もその人の元にいたら平和な世の中になるんじゃないかと思ったわけですよ。
まぁとにかくやってみないと分からない事ばかりなので色々試していくしかない。取り敢えず俺は大陸を旅しながら手頃な相手がいれば戦おうと思っている。そしてそのついでと言っては何だが俺を超える者を探したいと思う。
ただここで一つ疑問が出てくるのだ。俺を越えるほどの人物がそう簡単に見つかるのかと。
「あ、俺歳を取らないし死ぬことも無いんだった。いま思い出した。それにもう300年は生きてたんだったわ」
……うん、考えるだけ無駄だな。よしっ! そうと決まれば早速行動開始!! 俺は天下無双の英雄として名を馳せている。だから行く先々の街や村では英雄扱いされている。たまに俺の噂を聞きつけて挑んでくる者もいるが殆ど返り討ちにしてしまうので最近では全く相手にされなくなったりする始末。
そんなこんなあって、今は荊州のある街にいる。この街に来るまでに色んな場所で暴れてきたせいもあって今では誰も俺を止めようとしないどころか恐れられているようだ。
そして今まさに街の入口付近で門番の兵士と話していたところなのだが……。
「おい、お前! それ以上近付くとその首が無くなるぞ!」
兵士が槍を構えつつ叫んできた。どうやら警戒させてしまったらしい。まぁそれも仕方のない事だと思う。今の俺は腰に差していた刀を抜き構えていて、いつでも攻撃できる態勢になっているからだ。ちなみにその武器は俺が自ら作った名工の作品だ。銘を『絶影』と言う。この世に一本しか存在しない超一級品であり、斬れ味は抜群なのだが、見た目は只の長い直剣にしか見えない為あまり目立っていないという残念極まりない作品でもある。しかしそんな事はどうでも良いのだ。この兵士は今、俺を賊と勘違いした。つまりはそういう事である。俺としては誤解を解きたいところではあるが、下手に声をかけると問答無用で斬り掛かられる可能性がある。なのでここは敢えて無視する事にした。そしてそのまま歩みを進めて行く。すると……、 ズシャッ!!!……案の定、切りかかって来たのだった。その瞬間、兵士たちから歓声が上がる。
そして俺の足元には首の無い死体があった。
ふむ、やっぱりこうなったか……。まぁ良いんだけどさ。俺が歩くだけで血しぶきが舞うのはいつもの事だし。それよりも、俺が求めているのはこういう戦いじゃないんだよ。何て言うかさ、俺が望むのは命懸けの戦いじゃなくて互いに本気でぶつかり合える好敵手って感じかな。もしくは仲間とか。まぁこの世界にまだそういった概念は無いと思うけどね。
そんな事を考えながら俺は足早にその場を後にしたのだった。その後、旅を続けていると大きな城が見えて来たのだが、何故か城の様子がおかしい。まるで戦争でもしているかのような騒ぎになっていたのだ。これは何かあったに違いないと思い、近くにいた男を捕まえて話を聞いた。
それによると、ここから遥か北にある城が曹操率いる曹操軍に攻め落とされたという情報が入ったらしく、それが理由で混乱しているのだそうだ。
曹操か……そういえば、この辺りで聞いた覚えがある名前だった気がする。……うーん、どこだったか忘れたけど、確か曹操といえば袁紹のライバル的存在だった筈だ。……あれ? もしかしたらその曹操が攻め落としたのって俺が目指している場所の近くなんじゃなかろうか? まぁどちらにせよ、まずはその城に行かない事には始まらない。という事で、俺も一緒に同行させて貰いたいという旨を申し出てみたのだが、当然の如く断られてしまった。
まぁ当然だろうな。俺みたいな得体の知れない輩を連れて行きたくないのは当然の心理だ。だが、俺も引き下がる訳にはいかない。何故ならそこに俺の求める相手がいるかもしれないのだから。
俺は何度も頼み込み、ようやく城内に入る事が出来た。
「いやぁ~、助かったよ。ありがとな。えっと……」
「私は典韋です。あなたは?」
「俺は呂布奉先だ。よろしくな」
「はい、こちらこそ」
何とか入城の許可が下りたので、早速、城の中を見て回る事にする。だが、そこで一つ大きな問題が発生した。それは……。
「ちょっと待てよ! 勝手に入るんじゃねぇ!!」
「あ? うるせぇよ! 俺はここの城主に会いに来たんだ。邪魔すんじゃねえよ」
「ふざけんな! そんなことさせるかよ!」
「ちっ、めんどくせぇなぁ。……取り敢えず、全員死んどけ」
俺が一睨みしてやったら、そいつらは震え上がって腰を抜かし、地面にへたり込んでしまった。そして……、 ドサッ……バタバタッ……ドサドサ……
次々と倒れていく。……うん、こりゃあダメだな。こんなんじゃあ話にならない。俺を止める奴がいない。……というより、そもそもの話として誰も俺を止められない。俺はこのままどんどん奥へと進んで行く事にした。そしてついに見つけたのだ。その相手を……。
「お主、なかなかやるではないか」
「あんたの方こそな」
「では、お互い本気を出すとしよう」
「ああ」
俺はこの日、生まれて初めて本気を出した。今まで戦った誰よりも強いと感じた。こんなにも楽しいと思った戦いは初めてだった。そして遂に決着がついた。
勝負は俺の勝利に終わった。俺は相手の攻撃を見切って全て避けきった上で渾身の一撃を叩き込んだのだ。その結果、相手は大きく吹き飛び壁に激突した衝撃で絶命してしまった。どうやら気絶していたようだが、しばらくすると目を覚ました。
「おい、大丈夫か?」
「な、何だと!? 私の攻撃をどうやって防いだ! それにあの威力はどう考えても人間業ではないぞ!」
「そんな事はどうでも良い。それよりお前は何者なんだ? 見たところかなり腕が立つようだが、それでもただの人間が俺の攻撃を避け切れるとは思えないぞ。お前は一体何者なんだ?」
「フッ、それを私に聞くのか? まぁ良いだろう。特別だ。教えてやる。私が何者かと言うとな……、……そうだな、こう言えば分かるか?
『曹操軍四天王』の一人にして、天の御遣いである北郷 一刀様に仕える武将、夏侯惇元譲だ。この名を聞いてまだ分からないようならもう一度戦ってやってもいいが、どうする?」
そう言われても全くピンと来なかった。
「えーと夏侯惇さん?俺いろいろと疎くてですね。貴方のこと知らないんです」
正直にそう答えると、「ふむ、そうか。それならば仕方がないな。良し、決めた。これから私と一緒に北郷の元へ行こう。きっと北郷も喜んでくれる筈だ。ついてこい」
そう言って歩き出したので、俺も後について行った。そしてそのまま外に出る。
そしてそのまま歩いて城から少し離れた辺りで、「よし、この辺りでいいだろう。ここで良い。呂布奉先、貴様に最後のチャンスを与えてやる。今すぐ降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる。さもなくば殺す。返事は急げ。5秒以内に答えろ。1、2、3、4、……」
「断る。俺はまだ死ぬわけにはいかないんでね。悪いが見逃してくれないか?」
「ふん、まぁ予想通りの返答だな。まぁ良いだろう。どの道、逃がすつもりはないからな。さぁ、始めようじゃないか」
こうして、再び激しい戦闘が始まった。今度はお互いに全力を出し切った。まさに命懸けの戦いだった。……だが、やはり結果は見えていた。
「……これで終わりか。まぁ、中々楽しかったぜ。……さらばだ、我が好敵手よ」
「…………」
「ん?……何故泣いている? どこか痛いところでもあるのか? 安心しろ。すぐに治療してやる。だからもう泣くな」
「……違うんだ。俺は、俺が本当に求めているものは……これじゃないんだ」
「どういう意味だ? 言っている事がよく分からんが、まぁ気にしない事だな。それよりも、ほれ、治療をしてやろう」
「頼む」
「任せておけ」
そして、治療が終わったところで俺はその場を後にした。
それからしばらくした後、俺はある街で一人の少女と出会った。
「ん? おい、そっちには近付くな。危ないぞ」
「え? でも……、……あ! ごめんなさい!」
「あ? 何を謝っているんだ? お前は何も悪くないだろう? 俺は別に怒ってなんかいないぞ」
「え? じゃあどうして……」
「いや、そりゃあお前……、……あれだよ。……その……、お前みたいな子供が危険な場所に一人でいたら心配になるだろうが」
「……ありがとうございます」
「おう、どう致しまして」
「あ、自己紹介がまだでしたよね? 私は姓は曹、名は操、字は孟徳です。よろしくお願いします」
「ん? あぁ、俺は呂布だ。よろしくな」
「はい、こちらこそ」
「それで、その……、……あんたは一体何をしているんだ?」
「実は私、旅をしているんですけど、迷子になってしまって……。この街に行きたいのですが、どう行けば良いのか分かりませんか?」
「ん? ああ、ここなら知ってるよ。俺も前に一度来た事がある。俺で良かったら案内してやるよ」
「本当ですか!? それは助かります。よろしくお願いします」
「お安い御用だ。んじゃ行くぞ」
「はいっ」
「ここが目的地だ」
「わ~、凄く大きいお城ですね」
「ああ、そうだな」
「では早速行きましょう」
「ああ、そうだな」
「うーん、困りました。このお城の門番さん、誰も入れてくれませんでした。どうしましょう」
「ああ、そうだな」
「お兄さんは何か知りませんか?」
「ああ、そうだな」
「お兄さん聞いていますか!?」
「はい、すいません。ぼーっとしてました」
「しっかりしてください! ではもう一度聞きます。お兄さんは、このお城で何があったか知っているんですか?」
「はい、勿論ですよ。この城にはとても強い人がいて、この国で一番強かったんですが、ある日突然姿を消してしまったんです。それ以来、ここには化け物が住み着いているって噂が流れて、今ではすっかり人が立ち寄らなくなってしまったんです」
「そうだったんですか。ありがとうございます。それを聞いてとても安心しました。それじゃあ、失礼します」
「ええ、気を付けてくださいね」
「はい、また会いましょう」
「おう、達者でな」
「はい、貴方もどうか御元気で」
「ん? おい、ちょっと待てよ。……あいつって確か北郷の所にいた奴じゃなかったか?」
こうして、俺の日常に新たな日課が加わったのだった。
side 劉備 北郷さん達が徐州からいなくなって一月ほど経った頃、私は北郷さんから預かった手紙に書かれていた場所に来ていた。その場所とは、なんと曹操さんの軍師である郭嘉さんのお屋敷で、北郷さんが曹操さんに宛てたものらしい。そしてそこには北郷さんの他に関羽さんと張飛さんと、それと呂布さんという方が待っていると書いてあった。
「桃香様、本当にこの中に曹操軍の将軍がいるのでしょうか? なんだかとっても怪しい気がするのですが……」
「鈴々は反対なのだ。こんなところに一人で来るなんて危ないのだ」
「そうね。でもここに書かれている通りにするしかないみたいだし、仕方がないんじゃないかしら?」
「しかし……」
「それにね、愛紗ちゃん。もし仮に罠だとしても、今の私達に他に方法はないと思うの。だって今の状況じゃあ、曹操軍に勝つことなんて絶対に出来ないんだから」
「……確かにそうかもしれませんね」「そうでしょう?だからここは信じようよ。きっと大丈夫だよ」
「そうね。……そうよね。うん、そうよね。ごめんなさい、変なこと言って。……でも、万が一危険だと判断したらすぐに逃げてくださいね」
「分かってるよ。私達のことは気にしないでいいよ。ね? 朱里ちゃん」
「はい、任せてください」
「さて、じゃあ行こうか」
こうして私たちは中に入った。すると、すぐに一人の男性が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。私は郭奉孝と言いまして、一応は曹操殿の軍師の任に就いております。お見知りおきを」
「私は劉備玄徳です。こちらこそよろしくお願いします」
「それで、こちらが私の主君にして貴女方を呼び出した張本人でもある曹操孟徳です」
「久しぶりね、劉備。会えて嬉しいわ。さぁ、立ち話も何ですし、こちらへどうぞ」
「はい、分かりました」
そして奥へと通される。そこで待っていた人はやはりと言うべきか、想像していた通りの人だった。そしてその隣には、予想外にも呂布さんの姿もあった。
「あら? 随分遅かったじゃない。待ちくたびれたわ」
「すみません。俺遅れてしまって」
俺は遅れたことを詫びた。本当はもっと早く来れる予定だったのだが、なかなか抜け出せなくて結局ギリギリになってしまった。
「まぁ、別に構わないわ。それよりもまずは紹介させて頂戴。こちらの方が呂布奉先、私の自慢の部下であり、信頼出来る仲間の一人よ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お互いに挨拶を交わす。その後で、俺はあることに気が付いた。
「あの、その……曹操さん。一つ質問してもいいですか?」
「えぇ、勿論よ。何かしら?」
「どうして呂布さんは縛られているんですか? しかも縄でぐるぐる巻きになっているし」
「ああ、これ? これはこの子があまりにも言う事を聞かないものだから、仕方なく拘束しているだけよ。特に深い意味は無いわ」
いやいや、それは流石に無理があるだろう。いくらなんでもそれは無い。そんな理由でここまで念入りに縛り上げる人はいないはずだ。……というか、それ以前に普通はそこまで徹底的に束縛したりなんかしないだろうしな。……うーん、やっぱり曹操さんってよく分からない人だなー。
俺は心の中で改めて思った。それと同時に、曹操さんのことが少し怖くなった。「ねぇ、それより劉備達はこの子達を見てどう思う?」
「うーん、そうですね……。正直に言いますと、とても驚きました。まさか北郷さんが女性だったとは思いませんでした」
「ふむ、なに?……どういう事だ、呂布将軍?」
「い、いえ! 違うんです! これには色々と訳がありまして!」
曹操さんは不思議そうな顔をした後で、俺のことを問い詰めてきた。それに対して俺が慌てて弁明しようとすると、関羽がそれを遮った。
「こら! お前達、曹操様に失礼であろう! 曹操様は忙しい身なのだ! 用件があるのでしたら、とっとと言って帰れ! これ以上曹操様の御手を煩わせるようなら、叩き斬るぞ!!」
「はい! すいませんでした!!……あ、いや、待ってくれ関羽。俺の話を聞いてくれ! 誤解なんだってば!」
「黙れ! まだ抜刀もしていない内に、斬りかかってくる奴がいるかっ!? 馬鹿者めが、死にたいのか!?」
「い、いや、だって、……ってか、なんでそんなに怒ってるんだよ? なにかあったのかい?……もしかして、曹操さんになにかされたとか?」
「ち、違います! 私が勝手に勘違いしてしまっただけですから……」
「桃香様、あまり気になさらない方がよろしいかと思います。こんな奴のことです。大したことではないでしょう」
「そっか。それならいいんだけど……」
なんというかこの二人も相変わらずのようだ。というより、むしろ前よりも酷くなっている気がする。そして、そこにまた新しい人物が入ってきたことで事態はさらに悪化していくのであった。……っていうかさ、ちょっといい加減にしてくれませんかね?一体いつになったら解放してくれるのでしょうかね、この二人は?もう既に十分以上経っていると思うのですけど?
「曹操様、北郷一刀様をお連れ致しました」
「ありがとう、典韋。さぁ、北郷。これで役者は揃ったわね。では早速始めましょう」……うん、まあ薄々気が付いてはいたよ。こうなるんじゃないかなってさ。でもね、できれば俺は帰りたかったんだ。だからね、だからね?……もう少しくらい優しくしてくれたりしても良かったんじゃないかと思うんだよね。……いやまあ、この状況で俺が何を言っても無駄なのは分かってるから何も言わないけれどさ。
こうして、俺はようやく曹操軍の武将として認められた(?)。……はぁ、これから先が不安だ。本当に大丈夫かな? こうして、曹操軍の面々による自己紹介が終わったところで、郭嘉さんが話を切り出した。
「さて、曹操殿からのお許しも出たことだし、まずは曹操殿から劉備殿達にお話を伺うことにしましょうか」
「そうね。劉備、貴方達の方は今どんな状況なのかしら?」
「はい、私達の方も曹操さんと同じでかなり厳しい状態になっています。ですから、今は少しでも戦える戦力を増やすために各地を回って義勇兵を集めているところです」
「へぇ、それはご苦労なことね。それで、その方達は集まってきてくれそうなのかしら?」
「それが、なかなか上手くいかないんです。やはり曹操さん達の方も同じですか?」
「えぇ、残念ながらそうね。今の所集まった兵の数は二千にも満たないかしら」
「そんなに少ないんですか? どうしてそんなに集まるまでに時間が掛かっているんでしょう? 曹操さんのところの兵であれば、かなりの数が集まっているはずですよね? それに、袁紹さんの軍からも兵を回してもらえるという話になっていたんじゃなかったですか?」
「えぇ、確かにそういった話はあったわ。ただ、それはあくまでも『義勇軍』という形でよ。実際に兵が集まらない限りは、いくら集めても意味が無いわ。それに、『曹操軍が義勇軍を募って各地で暴れ回っているらしい。我々もそれに参加せねばならん。……貴公達も共に来るか?』なんて言った日には、誰一人として来てくれないわよ」
「あー、それは言えてますね」
「でしょ? そこで私は考えたわ。曹操軍は義勇軍ではなく、正式な軍を編成して戦うべきじゃないかって」
「はい、それは素晴らしい考えだと思います。でも、そうなると、どうしても兵の数が足りなくなりませんか?」
「それについては問題無いと見て良いわ。実は、今回の戦で使うはずだった兵力の半分近くが戻ってくることになっていて、その数は五万ほどになる予定なの」
「五万人も? すごいですね!」
「ふふん、そうでしょう? 劉備、褒めても良いのよ?」
「曹操さん、凄いです!」
「うふふ、もっと崇めなさい」
「はい、そうします!」
「……ねぇ、関羽。あの二人、完全に悪乗りしているように見えるのだけれども、止めなくていいのかしら?」
「放っておきましょう。曹操様はああ見えて意外と子供っぽいところがありますので、たまには羽を伸ばすことも必要でしょう」
「なにか失礼なことを言われていないかしら?」
「いえいえ、滅相も無い。曹操様の事を悪く言う者などこの世に存在しませんとも」
「あら、随分と含みのある言い方をするじゃない。……関羽、何か知っているのかしら? 言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさい」
「いえいえ、別に大したことではありませぬ。……それより曹操様、そろそろ本題の方に入りませんか? あまり長居をしていると、典韋達がうるさいかと」
「むぅ、それもそうね。では、早速始めるとしましょうか」
曹操さんは咳払いをして姿勢を整えると、真剣な表情で語り始めた。
「先程も話した通り、我々はこれから袁紹軍と雌雄を決する戦いを行うことになる。そして、この戦いはおそらく我々の勝利で終わるだろう。何故なら、相手は烏合の衆でしかないのに対して、こちらは精鋭中の精鋭なのだから。ここまで言えば分かると思うけれど、これは簡単な勝負ではない。もしも相手が本気で攻めてきたのなら、こちらの被害も少なくないものとなるでしょう。そこで劉備、貴方の力を貸して欲しいの」
「私の力、ですか?」
「そう、貴方の知恵を借りたいというわけ。……というより、貴方の持っている知識や経験が必要なの。お願いできるかしら?」
「……私なんかで良ければ喜んで協力させていただきます。曹操さんや曹操軍の皆さんの役に立てるというのなら、私に出来ることは何でもやります」
「ありがとう、助かるわ。では、貴方にやってもらいたい事を説明するわね。まずは――」
こうして、曹操軍の参謀である郭嘉さんによる作戦の説明が始まった。………………
「曹操様、質問よろしいでしょうか?」
「えぇ、構わないわよ。どうぞ、典韋」
「はっ! では、お言葉に甘えまして。その袁紹軍との戦いに勝つために必要な策とは一体どのようなものでしょう? 申し訳ありませんが、私にはまだ曹操様がそこまで自信を持っていらっしゃる理由が分かりません。曹操軍の兵は強いとはいえ、袁紹軍の兵も決して弱いわけではないのですから。曹操軍の方々が全力を尽くせば勝てる可能性はあるかもしれませんが、それでもその確率はかなり低いのではないかと。……曹操殿、教えていただけないでしょうか? その理由を」
「えぇ、分かったわ。まずは典韋、貴方が疑問を抱いている袁紹軍の強さについてだけど、貴方が思っているよりも遥かに強大な存在だと考えてもらって結構よ。私達曹操軍も袁紹軍に対して何度も戦いを挑んでいるけど、未だかつて一度も勝ったことがないわ。だから、今回の戦いにおいても私達は苦戦を強いられることになるでしょうね」
「それほどまでに強力なのですか?」
「えぇ、そうね。……でも、それは当然のことだと思うわ。だって、袁紹軍は兵数が多い上に、その全てが精強な兵で構成されているのよ? そんな相手にただの兵数差だけで挑むなんて無謀以外の何物でもないわ。それに、兵の数だけではなく質についても同じことが言えるわね。袁紹軍は優れた武将が数多くいるし、兵の質も高い。特に、袁術軍は優秀な将が多くいることで有名ね。そういった理由から、袁紹軍は兵数が少なくても十分過ぎるほどの強さを持っていると言えるわ。だからこそ、私は袁紹軍と戦う前に貴方達に言っておきたいの。『決して油断だけはしないで』って。この一言を心に留めておいて欲しいのよ」
「はい、分かりました。曹操様のお言葉を肝に銘じておきます」
「えぇ、よろしく頼むわね」
「ところで、一つ気になったんですけど、どうして袁紹さんは曹操さんのことを目の敵にしているんでしょう?」
「それは簡単なことよ。私が曹操という名を名乗っているからよ。つまり、私の偽物が袁紹さんの領地内にいて、しかも好き勝手に荒らし回っているんだから、袁紹さんの気持ちは分からなくもないわ」
「あぁ、そういうことなんですね」
「曹操、そのことについて少し聞きたいんだが、いいか?」
「何かしら、張飛?」
「曹操が名乗ったのは、お前が曹操を名乗っていない頃からだったのか?」
「そうよ。確か、私が曹操を名乗るようになったのは丁原さんが死んだ後くらいのことだったかしら」
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