器用貧乏は魅惑の美少女と無双を夢見る?

御月

器用貧乏と美少女

第0話 ファーストコンタクトは朧気で

「……君は、誰かな?」


 長年住み慣れた我が家の天井では、ないな、これ。綺麗すぎる。我が家の天井は飴色の板張り天井だった筈。白色の眩しさなど皆無だった。

 そして、横に誰かが居るような状況もあり得ない。ましてや美少女が我が家に居るとか、ありえないを通り越して意味不明だ。僕にそのような知り合いが居る筈がないし、なにしろ我が家は僕の一人暮らしだ。父も母も仕事で出張続きだったから。


 改めて僕の横で椅子に腰かける美少女を眺める。

 黒髪のロングボブが、毛先軽やかに膨らみ、窓からの風を孕んで柔らかに揺れている。

 唇は自然で健康的な桜色で、その膨らみは柔らかそうな潤いをたたえていた。薄くグロスでも塗っているかのような魅惑的な雰囲気だ。

 健康的な程よい肉付きの頬は薄紅が差し、きっと薄化粧なのだろうけど、幼さと妖艶さを兼ね備えたかのような魅力に溢れている。

 細目の眉は、まゆじりが垂れ下がり、目蓋を閉じているせいかより下がって見える。閉じていてこれだけの長さなのだから、かなり印象的な目をして居るだろう。


「結論は『やっぱり美少女』しか、出てきそうにない……かな」


 そして美少女は、無防備にも僕の横で寝ているのだ。すうすうと、穏やかな寝息まで聞こえてくる。


 髪と戯れる風が気になり美少女から視線をそらすと、窓の外にはグラウンドがあった。そしてようやく、ここがどこかのか思い当たった。


「ここ……保健室」

「あ、起きたんだ……」


 かけられた声に驚いて視線を戻すと、閉じた目蓋がほんのりと開かれていた。彼女は眠気を隠そうともせず、目蓋を手で擦る。まだ眠いのだろう。


「ごめん……寝ちゃってたよ。本を読んでれば大丈夫と思ったんだけどなぁ」


 閉じられた膝、スカートの上には文庫本サイズの本が閉じてある。カバーがかけられていて、タイトルは分からなかった。


「具合……どう?」

「え? えぇっと……悪くない、かな?」


 そもそも、具合が悪かったのだろうか? どうして僕が保健室に居るのかも理解できていなかった。


「変なこと聞くけど、ここ、保健室?」


 僕の判断ではそうなんだけれど、自分の知る保健室とは造りが違うんだよな。


「そっか、まだ知らなかったんだね。でも、まぁ気にしなくていいんじゃない? まだ寝てたほうがいいから」

「もう、なんともないと思うんだけ、あ、あれ──?」

「慌てない方がいいよ? 無理は禁物だから。おやすみ……治人クン」

「えっ?」


 彼女が僕の名を囁いた──僕はこの子の名も思い出せないというのに。

 思考に靄がかかって、眠気が僕を襲う。




 彼女の、アーモンドのようなクリッとした目が、とても印象的だった。





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