第3話 見覚えのある眼差し

「……誰?」


 あからさまに驚いたよね、この人。でも『知り合いがいて驚いた』のではなさそう。あの人はなぜか僕の名前知っていた──あれ? そもそも僕、この人に会っていたのかな? いつ? あれ? 本当に?


「……僕は柊。隣──よろしく」


 そう言うので精一杯だった。ちょっと声が小さくなってしまったのは許してほしい。混乱してたのもあるけど、そもそも、陰キャに美少女の相手は荷が勝ちすぎる。


「マジ?──黒姫、今、返事した!?」

「ゆ、勇者が降臨なされた!」

「あんな可愛い声だったの!」


 なんだろう、教室が騒がしい。隣に挨拶だなんて、陰キャの僕でも知ってるぞ? 当たり障りのない振る舞いがベストオブ陰キャの最高峰だからな。


「うるさいわ……いこ」

「ちょ、ちょっと、どういう!?」


 突然だった。

 可愛らしい目がキッと細められてしまって……それを残念に思う間もなく、僕は袖を掴まれて、あれよあれよという間に廊下へ引っ張り出されてしまった。


「この人、私のだから……手を出したら、分かるよね?」


 教室を去る直前の一言。場が一瞬で凍りついたのが、背中越しでも分かった。ざわめきが一瞬で消え去ったからね。もっとも、一瞬でそれ以上の大炎上の様相を呈してたけど。

 教室の騒ぎと『この流れは予想外だが、結局授業にならないし……』って助川先生の嘆きが、廊下の僕たちにまで届いた。






「ここは……楽園なの」

「天気に左右されないのは、いいと思う」


 てっきり屋上辺りに避難するのかと思っていたけどたどり着いたのは同じく3階奥にあった図書室。

 鍵は、何故か彼女が開け、カウンターの奥の司書室へ。


「ここは私の楽園エデン。ようこそ柊クン」

「お、お招きいただき、ありがとうございま、す?」


 強制的だったけど、とは言わないけど、教室に戻ったあとの追求が鬱だな。きっとこの人がこんな大胆なことをするだなんて、クラスメイトは知らなかったんだと思う、あの騒ぎようだから。


「なんか、不満そう」

「ふ、不満じゃないよ……どちらかと言えば、戸惑ってる」

「あなたから、誘惑してきたのに?」

「声はかけたけど、挨拶ね? ナンパじゃないから」

「あなたの目は、そうは言ってなかった。聞きたいことが山ほどある。そんな目だった」


 美少女が上目遣いで覗き込んでくる。胸元の白い膨らみがチラリと見えるのが、心臓い悪い。

 でも僕は、胸元より、彼女の目に釘付けだった。


 アーモンド形のクリッとした、大きな目に。





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