第5話 堺町と皇学園と柊治人①

「あのさ──驚かないでね」


『出会ったことがあるのか』『どうしてフィアンセの関係なのか』そして何より『どうして濃厚なキスを交わしているのか』この3つを尋ねると、黒木さんはおもむろに涎まみれの制服のタイを──シュルリと解いた。そして……。


「柊クンのこと信じてない訳じゃ無いんだけどさ、保険で結ばさせて、ね?」


 僕の有無も聞かず、彼女は両手首をタイで縛ってきた。さっきのキスを交わしていたとき程じゃないけど、彼女の言うことに逆らえない僕がいる。今も、大人しく両手を彼女へと差し出していた。彼女は僕の右手首を結び、後ろ手に回して左手首を縛り上げる。結構本気の縛り具合で、タイでなければ血が止まっているのではないかと思うほど強めだ。


「今の話に全て答えるには、まず前提を納得してもらわないと無理なんだよね。キスもそうだったけどさ、私もここまで晒すの初めてで、ちょっと不安なんだ」


 黒木さんはそう呟いたあと、ちろっと舌を出して見せた。おどけた雰囲気を醸し出しているけど、きっと彼女は不安なんだ。キュット締まった手首が、そう思わせる。


「柊クンが越してきたこの堺町さかいまちって、境界なんだよ」


 ぱさっ


 彼女の制服がテーブルに落ち、キャミソール姿が露になる。


「く、黒木、さん!?」

「ダメ! ちゃんと見てて!」


 慌てて目を閉じたけど……アァ、やっぱり。僕は彼女に逆らえない。

 そして彼女は片腕をキャミソールの中へ潜り込ませ、躊躇った。


「ここはね、あやかしと人の境界の町なの。昔はね日本古来のあやかしばっかりだったんだけど、世界中から住み家を追われたあやかしが集って……今があるんだ」


 黒木さんが、身をよじる。覗く、可愛らしいおへそ……そして、ピンクのブラが姿を表し──キャミソールがテーブルに舞い降りる。


「堺町はね、人とあやかしが命を奪い合う境界だったの、昔はね。最近は随分軟化してるんだって」


 ブラは流石に外さないのか……って、残念になんか思ってないぞ!? なにいってるんだ僕は!


「だからね、私みたいな存在が結構いるの」


 恥ずかしいのか、腕で胸を隠した黒木さんが、後ろを向いて──っ!?


「ほら、人には無いでしょ? コレ」


 黒木さんの白い背中に黒い染み……いや動いている。あれは……翼か。


「コウモリみたいでしょ? 私、夜魔族って名乗ってるんだけど。分かりやすくいうと、サキュバス……知ってる?」


 コスプレ会場のスタッフアルバイトで見たことがある。露出が多くてあまり近寄らなかったけど……


「僕が知ってるのより……綺麗で、目が、離せ、ない」

「ごめん、それ、きっと魅了だ。異性を引き付けるんだよ、サキュバスって」

「ううん。目を閉じようと思えば、閉じれる。でも、したくないんだ。ごめん、エロくて」

「そっか……ちょっとは耐性がついたのかも。さっきのキス──じゃないね、唾液の交感は、あやかし耐性を高められるかも──ってやったの。本当は性交すれば一発らしいんだけど……恥ずかしかった、から」

「──」


 あ、なんか鼻の奥が鉄さび臭い……これ、鼻血──な、なに、心臓が、鼓動が、すごく速くな!?


 視界が黒く染まり


「あ、やば──」

「柊クン!すごい鼻血!!」


 視界が暗転した。





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