第9話 間違いなくご両親

 500坪くらいありそうな敷地に負けない存在感を示す、こちらのお屋敷。そう、黒木さんのご自宅だそうで。


「蔦が覆う洋館だなんて、サスペンスでしか見たことないぞ?」

「あ、それちょっと分かる。私も幼いときは思ってたもの『殺人事件とか起きそう』って」

「……黒木さん、自宅にそんなこと思ってたの?」

「少なくとも私の感覚は、現代風だってことかな? ご先祖様と違って、洋館がいいだなんて、これっぽっちも思わないもの」


 あっさり言ってのける黒木さん。このお屋敷も、黒木さんにしてみれば、自分のセンスに合わない住居でしかない、ってことなのかな?


「さっ、行こう柊クン。お父様もお母様も待ってるわ」

「ちょっち、イキナリご両親!? しかも婚約者のご両親に挨拶!?」

「あれ? その気でいてくれたんだ。嬉しい。私は同居の報告くらいのつもりだったから」

「はめられた!」

「──はめて、いいの?」

「女の子がそういうはしたないことを言わないの!?」






「やぁ、ようやく来たね。てっきり昨晩にも来るかと思っていたんだよ? 治人くん」

「柊治人、です。お部屋が用意されているとお聞きし、お話を伺いに参りました。どうぞよろしくお願いいたします」


 重厚で艶やかな扉の先にいたのは、ソファーに体をあずけた金髪の男性だった。随分と若い身なりでありながら、貫禄がある感じがする。


「パパ、ただいま」

「ぱ、パパぁ!?」

「ど、どうしたの柊クン!?」

「い、いや、若すぎると思って」

「はっはっは! いきなり褒められるとは思わなかったな!」


 どうやら黒木パパさんは、年齢詐称な方のようだ。見た目は30前半くらいにしか見えない。少なくとも16~17歳の娘がいるようには見えないんだよ。話によると『インキュバス』というあやかしの系統らしい。

 ちなみに奥様──黒木ママさんは、遠い先祖にサキュバスがいたらしい。人間でありながらあやかし耐性をソコソコ持ち合わせ、そそるプロポーションをおもちの方で──この人、絶対サキュバスだって。耐性も何も、サキュバスだよ。ママさん、黒木さんのお姉さんにしか見えないもの。いろいろ規格外すぎる、容姿も含めて。


「あいたたたっ!」

「柊クン……婚約者の母親に、デレッとしないで」

「おや、あの合歓が……かい?」

「ここのところ機嫌がいいと思ってたけど、変われば変わるものねぇ」

 お尻をつねられている僕を見て、黒木パパさんのアルフォンスさんと、ママさんの万莉花まりかさんが微笑んでいた。


 イケメンにイケジョ……流石は合歓さんのご両親だよ。その血は裏切らないね。

 ──だとすると、僕も親父とお袋に似ていることになるけど……似てないといいなぁ。息子放置で世界中飛び回る両親に似ているだなんて No Thank you ! だ。





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