第8話 色々と修羅

「あれ……黒姫?」

「まさか、あの人が、ウソだろ?」


 陰キャ代表、柊治人、ただいま絶賛反省中です。調子に乗るから、こんなことになったんだって。


 現在、下校のために生徒玄関で靴を履き替えておりますが


「柊クン……靴の場所は分かる?」


「履けるかな? やってあげる? あ、肩貸すよ、掴まって」


 何かにつけて、黒木さんのボディータッチが激しいのです。コレ絶対昼間に調子に乗ったからだよ! 陰キャで『人生=彼女いない遍歴』の僕から見ても、黒木さんの瞳に♡マークが見えるもの!

 キスはした! 認める! でもそれ以上してないのに、この落としっぷりは何なの!?

『こいつ誰よ』的な視線はいいの、そっちは結構日常茶飯事だから。でもね、真横の♡マーク混じりの視線は怖いの、怖いのよ! 恋愛対象なのか捕食対象なのかフィフティーフィフティーな可能性大なのが、更に!! もう、は○たいらさんに3000点なんだよ!(僕が幼い頃、親父が使ってたネタだ。詳細はググってくれ。僕は調べたが良く分からなかったよ)


「柊クン、百面相?」

「──失礼、取り乱しました」

「そ、それならいいけど」


 結局1回も授業を受けず、学園を後にする僕。助川先生、ごめんなさい。僕やっぱり、先生のオアシスじゃなかったよ。むしろ黒木さんの乾きを潤してたよ……あ、思い出すんじゃなかった。黒木さんがワクワクし始めちゃった。


 ……黒木さんから教えてもらったんだけど、サキュバスって、性とかの欲望の香りに敏感なんだって。今までは、言い寄ってくる嫌悪対象の香りだったから、嫌いだったらしいよ。

 僕? 僕のは『前菜からデザートまで』だって。フルコースと同等ってことだね。やっぱり捕食対象に思えてきたよ。


 そんな僕が、なぜ放課後まで黒木さんと一緒かと言うと……


合歓ねむさん、こいつ誰かな? 知らない奴に付きまとわれて迷惑でしょ? 俺と一緒に、どう? お茶していこう」

「うるさい悪臭。私は柊クン以外、視野にも入れたくない」


「合歓さん、なんでこの男と? 約束なら僕の方が先じゃないかな?」

「そんな約束してない。あっても唾棄すべき案件。柊クンを連れ帰るの邪魔しないで」

「まるで、テイクアウトされるハッ○ーセット扱いの僕について」


 とまぁ冗談だけど、このあと不動産屋で部屋探しと伝えたら、この状況なんだよ。


「ホントに、黒木さんちで暮らす話になってるんです、僕?」

「もう準備も終わってる。来ないと家族も困る。私も困る」


 と言うことらしい。スマホを見ても、それらしき連絡が無いのはどうなのよ親父……って、いつもの親父なら、こうなるか。そもそも記憶に残ってる連絡は、転校の件だけってくらい、音信不通だし。







 艶やかな髪を眺めながら、家路をたどる。うん、ウソついた。黒木さんちを知らないから、ついていくしかないんだよね。

 道中はいろんな話をした。

 黒姫って呼び名は『黒髪の眠り姫』の略だそう。本人が認めたことは勿論ないそうだけど、否定する気力も湧かなかったんだって。


 むにゅ


「おわふっ!?」

「ねぇねぇ柊クン! ちょっと寄り道していこう。放課後デート!」

「……欲しがりません、勝つまでは」

「──何に勝つまで?」

「煩悩、かな」


 僕から謎パワーを得て元気いっぱいの黒木さんが、道中、度々誘惑してきます。それを都度『そーい!』と放り投げる僕。

 何度も放り投げていたせいか、腕にしがみつかれる圧がドンドン増してます。そう、です、がぱないの。何の圧かは察してくれ。スッゴい我慢してるんだから。こんなんで繁華街堂々と歩けるか!って感じ。

 やっぱり調子に乗りすぎたんだと反省、いや猛省です──学校関係者にバレたら、不登校ものだぞ、マジで。


 で──。


「これが……黒木さんち?」

「そうだけど?」


 全力で逃げ出そうとしたけど、圧で絡め取られました。

 ……だって


「すんげぇ豪邸」


 生活苦の僕が暮らしていい場所ではないです、絶対。





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