第10話 7年ぶりの再会

 黒木さんは、着替えに自室に向かった。

 リビングに残された僕はというと、黒木パパさんとママさんに、ニコニコと見詰められている。正直、超居心地悪いんですけど。陰キャにこの状況は辛すぎ。


「あ、あの──」

「いやぁ、すまんすまん。正嗣まさつぐの息子だから、もっとゴツいと勝手に思っていたんだよ」

「そうそう。ちょっと線は細目だけど、体幹もしっかりしてるし鍛えてる感じね」


 無茶苦茶値踏みされておった。

 でも、よくよく考えたら、当たり前の話だよね。僕のこと知らないのに、親繋がりで婚約者にしちゃったわけだもの、あの美少女、黒木さんを、だよ? 可愛くて仕方がないオーラ隠せてないもの、ふたりとも。


「あの、お会いして早々に失礼かとも思ったのですが、お聞きしいたいことがありまして……」


 黒木パパさんの、笑みの質が変わった。今までは好意的だったけど、コレは──獲物を狩る目だね。分かるよ、バーゲンセールに並んでるオバちゃんたちの会話前哨戦と同じ、相手を油断させる笑みだよ。警備会社ガードマンアルバイト経験者の目は誤魔化せないぜ?

 やれやれ、やっぱり大人は怖いね。きっと僕たちの婚約にもいくつかの利権が絡んでると思うし。じゃないと、黒木さんみたいな美少女と、陰キャな僕を結び付けるメリットがない。

 これは──プラン変更でいくしかないか。


「なんだね? 言ってごらん?」


 狩る側の余裕か? だったらそのまま喉笛を噛み千切るまでだね。


「黒木さんと僕の婚約は本当のことでしょうか? 本当ならば、解消をお願いします。父……正嗣の意向は無視して構いません」


 寝泊まりする場所は惜しいけど、黒木さんの人生を巻き込むほどの価値はないもの。

 そもそも、寝床があったって、生活資金は稼がにゃならんし、そんな大差はない。


「てっきり……下宿のことを言ってくるかと思っていたよ」


 目を丸くした黒木パパさんだけど、これもブラフ。口許の獰猛な笑みが消えてないよ。

 あやかしって、思っていた以上に本能に忠実なのかもしれない。感情を隠しきれていないよ? それすら演技なら、僕にはお手上げだけど。


「下宿より大切な話でしょう? 娘さんの人生がかかっているのですから。」

「君も、正嗣から預かる大事な人なんだが?」

「よく言いますね。比較対照が愛娘なら、そもそも天秤にかける気もないですよね? ですよね、黒木さんのお母様も?」


「──」


 話し合いが始まってから、一切口を挟まない黒木さんのお母様だけど、この場に居ない筈がないんだよ。


「──沈黙は肯定と受け止めますよ? そもそも、違和感だらけなんですよ、おふたりとも。娘さんへの愛が深すぎるのに、見知らぬ男と婚約だなんて」


 さて……どう出る? 黒木パパさん?

 インキュバスがどういったあやかしなのか知らないけど、きっと黒木さん系統な筈。気を張っていれば、少しは抵抗できる……といいな。




「正嗣……やられたよ。本当に君のいう通りだった」


 黒木パパさんが、両手を上げて降参ポーズをとった。

 あ、あれ? これは想定外。なんだか清々しさすら感じるんだけど。


 ガチャ──


「──だから言ったろうがアル。 治人は曲がったことが嫌いだってよ」


 お、お、おおおおおおお!?


「親父ぃ!?」





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