第1話 夏を思わせる青い空

ひいらぎ治人はるとです。よろしくお願いします」

「ふふっ快活でよいね。 私は校長の式笑しきわらだ。好調の式笑と呼ばれているよ」

「──担任の助川すけがわたすくだよ。ようこそ2年D組へ。詳細は学級に向かいながら話すとしよう」


 担任となる助川先生に連れられ、廊下を行く。

 突然の親の転勤にともない、なぜか転校させられた僕は、ここ、私立 すめらぎ学園に転入となった。


(なんでひとり暮らしをさせるのに、転校が必要になったのか、今でも謎なんだよなぁ)


 親は都心から地方へ転勤になったらしいけど、僕とは元々別居だった。


(僕が残れば良い話──なんだけどなぁ)


なのに、縁も所縁もない土地への転校。しかも一人暮らしは変わらないらしい──なんで転校必要だったのか。今でも意味は見いだせていない。


「あぁ……先に言っとくわ。柊が所属するクラスは2年D組なんだが、人数調整の結果で決まった。学力とかではないから安心してくれ。それにここ皇学園は、進級の度に学級解体があるから、上を目指すことも可能だからな」


 窓からの景色を眺めている僕に、助川先生が悲しげに語った。


「あの……なにか僕、気に障ることでもしてしまいましたか?」

「いや、柊はむしろ心のオアシスだな」

「──はい?」


 訳が分からない。


「校長の自己紹介──引っ掛からなかったか?」

「あ、随分と若々しい方でしたね。それと、フランクでユニークな方だとは思いましたけど」

「フランクでユニーク、か。やはり柊は心のオアシスだ」

「は、はぁ?」


 階段を上る。

 先程まで見えていた葉桜が横にならび、3階までくると見下ろすかたちになる。青空はどこまでも澄み、夏の訪れを予感させる。


「3階階段正面が、2年D組の教室だ」

「先ほどから顔色が優れませんが、何かクラスのことで?」

「エスパーか、君は!?」

「いや、分かるでしょう。クラスの話をする度に憂鬱な表情をされれば?」


 ……先生の息が詰まった。


「2年D組は優秀だ。実力ではA組に決して劣らない。ただ……モラルに欠けるんだ」


 ──どう言うことです?


 イヤな予感がビンビンする!!

 口を開き、助川先生に尋ねようとした矢先に──教室の扉が吹き飛んできた。


 どっぱーん!


 そして溢れ出てくる水!水!水!時々……人魚!?


「ひゃっほー!成功だぜ!」

「エラ呼吸ってなんか変な感じ~!」

「ビッグウェーブに、俺はなるっ!」






 僕? 当然流されてます。階段の窓を破り、水と一緒に大空に舞う僕。

 視界には夏を思わせる青い空……まだ、夏には、そして海には早いと思うよ?

それに──


(──名も知らぬ君! ビッグウェーブって、大波になってどうするのさ!?)






意識が暗転した。





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