哀しくも美しいひとつの愛のかたち

莫津左売と三虎は、遊行女と上毛野君大川さまの従者という身分ある男として出会います。もうその段階で、ふたりの関係はほぼ決まっています。立場ある男と、彼が一人前となった証拠としてその存在を求められるなじみの女。

もちろん、莫津左売にもそれはわかっています。彼女にとって、目をかけてくれる男ができるというのは、第一に生きていくための手段です。男がつかねば食っていけない、自分の意思で遊浮島を出ていけない女たちにとって、それは死に直結する問題でした。

でも、そんなあやふやではかないつながりの中でも、三虎は莫津左売を愛し、彼女に自信を付けさせ、美しく開花させます。最終的に三虎は別の運命の女のもとへ戻っていきますが、三虎への愛により女としての魅力を身につけた彼女には、また別の強く深い愛が待っています。

愛とはままならないもの。ひとつの愛が終わっても、そのそばで別の愛が始まることもある。複数の愛が入り混じることだってある、最初から終わりが見えている愛もある。いろんな形があるのだと思わされます。

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