総務課の沢渡くんはなかなかクセのある人物。
高校時代は野球が上手くて、バイセクシャルで、愛とはセックス!と信じて疑いません。自分の価値観を前面に出す頑固さを見せ、すぐに逆上し、それなのに一方で少しの不登校を経験していたりと、繊細な一面も。
そんな沢渡くんがときめいてしまった美しい日野さんには、深く愛する人と忘れがたい過去があります。沢渡くんには手の届かない人物かと思いきや、日野さんとの距離はどんどん縮まっていきます。日野さんには、決して手放すことのできない余田さんという愛するひとがいるのだけれども…
三人の気持ちと愛のかたちが複雑にからみあうひとときを映し出したストーリーです。
作者様は途中からノープロットで書き進められたとのことで、そのためか、型にはまらない登場人物たちの生の感情が現実のもののように感じられます。とても特殊な状況ではあるのですが。
ちなみに、サブキャラクターとして登場する遠藤くんが、とってもかわいいです(*´ω`*)
両性愛者で、恋愛=セックスという刹那主義的価値観を持つ「総務課の沢渡くん」こと主人公の沢渡健は、同じ部署に配属された年上の男性・日野さんと出会い、恋に落ちる。日野さんにはすでに同棲中のパートナーがいるが、それでもお構いなしとばかりにガンガンにアタックする沢渡くん。日野さんを我が物にするまでの道のりは険しく、激しく恋心を燃やしていく次第に、沢渡くんは「人を愛することとは何なのか」という命題に直面します。
沢渡くんの絶妙な心の変化から、人間愛というものについて一途に考えさせられる作品です。同性同士の恋愛は一般的な男女のそれよりも想いの結びつきの純度が深いのか、愛の営みはため息をつきたくなるほどにエモーショナルで、それ故に登場人物たちの感情がぶつかり合うシーンは火花を散らすように激しく、独特の読み応えがあります。
性別や年齢はもちろん、性的指向によっても受け止め方が変わる作品ではないかと思います。恋と愛は似て非なるもの。ぜひこの作品を通じて、その両者の在り方について考える時間をつくってみてはいかがでしょうか。
最初、私は沢渡くんを受け入れられませんでした。
その性指向ではなく、姿勢ゆえです。
独善的で、他人の痛みに無神経で、何よりも他者に土足で踏み込むようなその言動に、胸がざわつきました。
それでも読まずにはいられませんでした。
それは作者様の誠実さを知っているがゆえ、試されているように感じたからかもしれません。
あるいは、彼の抱える「渇き」が、自分の中にあるものと、どこかで響き合っていたからかもしれません。
全20話を読み終えた今、私は少し違う感情で彼を見つめています。
この作品は、性的指向や恋愛観、性自認をめぐる“答えのない世界”を真っ正面から描き出します。
安易な共感や救済に頼ることなく、「怒り」や「哀しみ」という感情の源泉から書いています。
これはエッセイ『物書きの壁打ち』『第7話 性をめぐる答えのない世界』を読むと、より明確になります。
登場人物たちが映すのは、作者自身の過去や、かつて作者を傷つけた誰かの影や断片かもしれません。
そして、そんな直視したくないモノを理解しようとする眼差しが、物語全体を通して示されているようにも見えます。
私はその姿勢に、物書きの端くれとして最大限の敬意を表します。
本作は、冒頭で沢渡くんに拒否感を覚えたあなたにこそ、読んでほしい。
それは、プロット上のフックのための道具的露悪とは一線を画する。
怒っても、苛立ってもいい。
だけど読み終えたあと、あなた自身の中にも、少し違った感情が芽生えているかもしれません。
読むことで、誰かを許せなくてもいい。
でも、自分を少しだけ赦せるようになるかもしれない。
自分というのは、あらゆる他者を映す鏡です。
故に、それは人と共に生きることへの第一歩になりうる。
――そんな物語です。
恋愛に対して刹那的に生きる、主人公・沢渡くん。
彼がまず第一に優先するのは、愛する感情よりもカラダの関係が成立するか/させたいか否か。いわゆるバイ・セクシュアルで、男女問わず「キャッチボールかパス練習をするみたいに寝てきた」。関係が深くなると、「フェードアウト」。
会社の先輩に対していつものように“ものにしたい”という欲望とは別に、徐々に気づいていくはじめて抱く感情に戸惑い、苦しむ姿が身体の痛みのように苦しい。
かたちだけじゃない関係を知らないままでいられたなら、彼はもっと楽に生きて、だから幸せだったのでしょうか?
そうかもしれません。そしてその答えは、本文の中にあります。
本作の肝は、ひとつじゃない愛のかたち。だと思います。
それぞれの愛へ。関係の中へ。空間へ。出会いへ。
スイートに見えて、ビター。ビターなのに、フレッシュ。
多面的な魅力を備えた本作を、どうぞご堪能ください。