恋愛に対して刹那的に生きる、主人公・沢渡くん。
彼がまず第一に優先するのは、愛する感情よりもカラダの関係が成立するか/させたいか否か。いわゆるバイ・セクシュアルで、男女問わず「キャッチボールかパス練習をするみたいに寝てきた」。関係が深くなると、「フェードアウト」。
会社の先輩に対していつものように“ものにしたい”という欲望とは別に、徐々に気づいていくはじめて抱く感情に戸惑い、苦しむ姿が身体の痛みのように苦しい。
かたちだけじゃない関係を知らないままでいられたなら、彼はもっと楽に生きて、だから幸せだったのでしょうか?
そうかもしれません。そしてその答えは、本文の中にあります。
本作の肝は、ひとつじゃない愛のかたち。だと思います。
それぞれの愛へ。関係の中へ。空間へ。出会いへ。
スイートに見えて、ビター。ビターなのに、フレッシュ。
多面的な魅力を備えた本作を、どうぞご堪能ください。
気付けば一気読み、没入してしまいました。
ジャンルは間違いなく恋愛なのですが……私の中の「恋愛」イメージは覆されました。
ハッキリと同性愛の話なので、それは好みの別れるところかなと思いますが、だからこその良さが数多くあります。
男同士で男を想い奪い合うという、ほとんど女の香りがしない物語をここまで生々しく感じたことはありません。私が読み取った苦しさも痛みも温かさも、どこまでも『男』な彼らの物語だったからだと確信できます。
同性愛なら・女同士でも、というような普遍性がない、唯一無二の魅力と感じました。こればかりは作者様の力量でしょう。
この読後感で10万字。単行本1冊。まとまってる……!
私も書き手の1人ではあるのですが、これは私には書けないやつだ……と尊敬するばかり。ぜひ、多くの人に読んで頂きたいですね。