タイトルだけを見たらパンに塗るのかな? と思うのだけれど「え、これに塗るの?」とまずはド肝を抜かれます。
そして面白い発想だなあという感想が湧くが、段々そういう仕事の話なんだという錯覚に陥るのだ。そしてこの街が段々素敵に感じてきた頃、事件は起きる。
そこでね、ある人の話が出るんだけれど、何故か切なくなって彼らと一緒に泣きたくなるのです。何とかならないの⁉ と。
かなり面白い物語だと思います。
自分の仕事に疑問を抱かずに毎日同じ日々を繰り返している社会人は多いと思う。そんな人々がこの物語を読んで「ハッ」とするかもしれないし、何も思わないかも知れないし。けれども自分の仕事に拘りを持ち、楽しんで仕事が出来たらいいなとは思いました。
あなたも是非、お手に取られてみてくださいね。お奨めです。
バレンタインデーやクリスマスが楽しいのは、毎日毎日飽きるほど見慣れた街が、イルミネーションや街頭広告によってガラリと雰囲気を変えるからでもあります。建物をビニールシートで覆ってしまう前衛芸術家や、高層ビルをよじ登ろうとするパフォーマーも、代わり映えのしない風景に一石を投じ、なにもかもが常に整然としていなければならない現代社会に問題提起してやろう、というのが動機のひとつでしょう。
しかし、バレンタインデーもクリスマスも年に一度、一日きりのイベントであり、著名な芸術家やパフォーマーが訪れる機会ともなればさらに稀であり、現代人の疲れた心を楽しませてくれるような物珍しい光景は、そうそうお目にかかれないのが現実。
本作は、整然とした高層ビル街にピーナッツバターを塗りたくり、日常にカオスをぶちまける職業を描いた話です。
主人公達の業務形態が、高層ビルの窓を拭く清掃員に似ていることからも、「高層ビルを清潔に保ち、代わり映えのしない日常風景を維持する役目の人達が、逆に高層ビルをピーナッツバターみたいなものでベチャベチャにしたら面白いだろうなぁ」「合理性だけが良しとされる世の中にも、ちょっとぐらいカオスがあったっていいのに」といった反骨心を感じました。
もし本当に高層ビルをピーナッツバターまみれにしたら、すごい勢いで鳥や虫が群がりそうですし、すごい勢いでピーナッツバターが腐ってゆき、むせかえるほどの甘い香りと腐敗臭のせいで窒息する人が大勢出るはず。また、高層ビルの上層階ほどの高さからこぼれ落ちてくるピーナッツバターの塊が、もし通行人の頭を直撃でもしたら、とか、雨の日のことなどを想像すると、疲れた心をちょっと楽しませてくれるどころの状況ではない気もします……が、この作中世界では、ピーナッツバターまみれの高層ビルが社会的に認められています。
理不尽な状況を誰も指摘しないという社会風刺かもしれません。でも、リスクばかりをいちいち気にしてカオスを楽しまないと、世の中がつまらなくなるのかもしれませんね。
主人公は建物にピーナッツバターを塗る職人。
専門学校を卒業し、その仕事に就いて10年になる。
ところでなぜピーナッツバターを?
季節の催しに合わせて配合を変えたり、その出来栄えがビルの良し悪しに直結したり。
でも、なぜビルにピーナッツバターを?
もはや誰も理由なんて考えない。おかしいとか、やめた方がいいなんて思いもしない。でもそこに人々の素敵な物語が生まれたり…。
行為が目的にすり替わってしまった究極のブルシット・ジョブ、という言葉が頭に浮かびました。
テンポも良く、脳がうんにょりするような良質な少し不思議を味わえる作品です。
余談ですが自分はピーナッツバターといえばクランチ派なので、その描写にも感銘を受けました。
主人公は建物にピーナッツバターを塗る仕事をしている。
……比喩ではなく、本気でオフィスビルにピーナッツバターを塗っている。しかも組織ぐるみで。
もちろん穴埋め用のパテのつもりでもない。
十年選手の主人公は、塗られたピーナッツバターの品質を僅かな情報だけで把握し、仕事を主導できる程にもなっている。
しかし、日本屈指のビジネス街にして、一種の観光地にもなっているA駅の仕事に取り掛かった際に、事件が巻き起こる――
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この少しばかり風変わりな作品を読んでみて、思い出したことがある。
業務スーパーだったか、他の輸入品を取り扱っている店だったか、はっきりと覚えていないのだが、
ふらっと業務用サイズを取り扱っている店に立ち寄ったことがある。
そこは何でも大きかった。飲料水も、パスタも、オリーブオイルも、ガムも、肉も、チョコレートも、チーズも、何でも。
そこで一際印象に残ったのが、マーガリンだった。容器がまんま大きめのバケツで、その中にギチギチに詰められているであろうマーガリンを想像して胃もたれを起こした。
なんでこんな商品があるんだろう。買う人いるんだろうかと思ったのだが、事実一つは減っていた。
何であれ、欲する人はいたわけである。
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この作品はおかしい。
でも別にシュールな話だからおかしいわけじゃない。
その中に、市井の人々の生き様を描く人間ドラマがあって、
自分がしていることについて「よく考えたら、なんでこんなことしてきたんだっけ?」というごく自然な問いがあって、
実はそういった、おかしい仕事がたくさん集まって、社会を動かしているんじゃないのか、という疑念を抱かせるのだ。
その感覚がどうもおかしくて、愛おしい。
○○な方にオススメと、なかなかはっきりと言い表しにくい作品ではあるが、
それこそ主人公と同じ、十年くらい働いてみて、大体社会の在り方が分かってきた方にオススメしたい作品だった。