ひどくおかしかろうが、それにはきっと理由があるのだ。


 主人公は建物にピーナッツバターを塗る仕事をしている。
……比喩ではなく、本気でオフィスビルにピーナッツバターを塗っている。しかも組織ぐるみで。
 もちろん穴埋め用のパテのつもりでもない。

 十年選手の主人公は、塗られたピーナッツバターの品質を僅かな情報だけで把握し、仕事を主導できる程にもなっている。

 しかし、日本屈指のビジネス街にして、一種の観光地にもなっているA駅の仕事に取り掛かった際に、事件が巻き起こる――



 この少しばかり風変わりな作品を読んでみて、思い出したことがある。

 業務スーパーだったか、他の輸入品を取り扱っている店だったか、はっきりと覚えていないのだが、
 ふらっと業務用サイズを取り扱っている店に立ち寄ったことがある。
 そこは何でも大きかった。飲料水も、パスタも、オリーブオイルも、ガムも、肉も、チョコレートも、チーズも、何でも。
 そこで一際印象に残ったのが、マーガリンだった。容器がまんま大きめのバケツで、その中にギチギチに詰められているであろうマーガリンを想像して胃もたれを起こした。

 なんでこんな商品があるんだろう。買う人いるんだろうかと思ったのだが、事実一つは減っていた。
 何であれ、欲する人はいたわけである。



 この作品はおかしい。
 でも別にシュールな話だからおかしいわけじゃない。

 その中に、市井の人々の生き様を描く人間ドラマがあって、
 自分がしていることについて「よく考えたら、なんでこんなことしてきたんだっけ?」というごく自然な問いがあって、
 実はそういった、おかしい仕事がたくさん集まって、社会を動かしているんじゃないのか、という疑念を抱かせるのだ。

 その感覚がどうもおかしくて、愛おしい。


 ○○な方にオススメと、なかなかはっきりと言い表しにくい作品ではあるが、
 それこそ主人公と同じ、十年くらい働いてみて、大体社会の在り方が分かってきた方にオススメしたい作品だった。

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