第16話

 少女は今、東区にある叔母おばの家に預けられていると言っていた。

 ハンナムもしばらくそこで世話になっているそうだ。しかし数日前から一向に帰ってくる気配がない。隣町に救援に行っているのだと叔母は言っていたそうだが、ミーシアは自分が父親に反発したから怒って出ていったと思ったようだ。

 それで少女は毎日ハンナムの行きそうな店を見てまわっていたという。

 ロベルが口を開く。

「ひとまず今日は俺がおばさんの家まで連れて帰ろう。ミーシア、こんな時間に出回ったら危ないから、今後は大人と一緒に来るんだぞ」 

「ごめんなさい。今度はイザベラお姉ちゃんたちと来るね」

「なるほど、イザベラのことも知っているのか。これはいよいよ、ハンナムの娘だな。あいつに子供がいたとはなあ」

 ロベルがしみじみと言うと、ミーシアは「あっ」と声をあげた。

「違うの。パパはパパだけど、パパじゃないの」

「どういうことだ?」

「パパをパパだと思ってるのはミーシアだけなの。怖いおじさんたちに連れて行かれるところを、パパに助けてもらって……」

 よく話を聞いてみれば、ミーシアはどうやら奴隷商か盗賊にさらわれた子供のようだ。数ヶ月前に山の中でハンナムたちが現場に出くわして、この少女を助け出したらしい。

 そんな彼をミーシアは実父のように慕っているようだ。

 しかし結婚もしていないハンナムはそんな風に思われても困るだろう。子供がいれば冒険者としての自由も利かなくなる。そこで、ミーシアが以前この町に住んでいたということを聞いて、彼女の知人がいるのではとこの辺境の町までやってきたそうだ。実際に彼女の叔母が住んでいたのだから、彼らの行動は間違っていなかった。

 ロベルはなるほどなあとうなずく。

「確かにハンナムたちがうちの冒険者ギルドに登録したのは二ヶ月ほど前だ。この町に高ランクが来るなんて他のギルドで何かやらかしたんだと思っていたが、そんな理由があったとはな」

「パパはミーシアを置いていっちゃうよね……」

 少女はうつむいたまま呟く。

 カミュはミーシアの顔を覗き込んだ。

「ミーシアはまだ小さいし、パパについていくよりもおばさんの家の方が安全だと思うけど、どうかな?」

「おばさん、今は優しいけどパパがいないときはちょっと怖い。お金がどうのって言って怒るの」

 養育費を出し渋っているのか。確かに自分の子でなければそうなるのは仕方ない。ハンナムがいると優しいというのだから、彼は滞在時にそれなりの生活費を渡しているのだろう。

「そうだ」

 カミュはふと思いついた。

「ロベルさん。冒険者ギルドの登録って何歳から可能です?」

「扶養家族としてなら赤子でも可能だが、単身となるとこの町での前例はないな。見合うスキルがあれば子供でも問題ないが」

「俺の草摘みと地下水道掃除の手伝いをギルドに依頼して、それをミーシアに受注してもらおうかと思うんですが」

「なるほどな。生活費を自分で稼いでくればおばさんも文句言わねえし、冒険者として成長すればハンナムに同行も可能になるってことか」

「そういうことです」

 カミュの言葉に、ロベルはふむふむとあごひげを撫でる。

「じゃあ早速スキル測定だな。ミーシア、明日冒険者ギルドに来てくれるか?」

「……お仕事すればパパと一緒にいられるようになる?」

「その可能性があるということだ」

 ロベルの言葉に、少女は目を輝かせてうなずいた。

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