第12話

 さて、冒険者狩りに遭ったハンナムだが、一通り治療は終わったものの目を覚ます気配がない。

 カミュはあれから三日ほど診察室に泊まり込んだ。

 ハンナムの腹部に置いた回復水入りの布をきちんと定期的に取り替えていたので内臓の傷はもう完治している。しかしぴくりとも動かない。規則正しい呼吸音は聞こえるから生命力は絶えていないようだが、眠りから覚めない原因はいまだ不明だ。

 身体は寛解かんかいしているということで、ハンナムは診察室からギルドの仮宿舎に移された。あとは彼が目を覚ませば、冒険者狩りの犯人も分かるかもしれない。

 カミュもようやく肩の荷がおりた。四日ぶりに宿に帰れそうだ。ギルドも閉まる時間なのでそろそろ店じまいを始める。

 そんな矢先のことだった。診察室の扉がノックされる。

 返事をすると、低ランク冒険者が三人入ってきた。

「もう終わりの時間なのにすまない……傷を、てもらえないだろうか」

 冒険者のうちの一人が頭から血を流している。残りの二人も足を引きずったり腕を押さえたりしている。

 強い魔獣にでも出くわしたか。

「いえ、魔獣じゃなくて……」

「もしかして冒険者狩りか?」

 カミュが質問すると、三人はゆるゆると頷く。

 とにかく治療をせねばと三人を椅子に座らせると、カミュは棚から手早く回復水の瓶を取り出した。

 冒険者の一人が悔しそうに口を開く。

「酔っ払いしか狙わないって聞いてたのに……」

「こんな早い時間にもいるなんて聞いてねえよ……」

 彼らが言うように、闇に紛れて犯罪をおこなうには時間が早すぎる。確かに外は暗くなってきているが、まだ夕日が沈んだ程度の時間帯だ。相手の顔だって見えるだろう。

「犯人の顔は見たのか?」

 ニットウ草をすりつぶしたものを傷口に塗りながらカミュは質問する。しかし三人は首を横に振った。

「後ろから攻撃されて、俺たち三人ともその場で気を失ってしまったんだ。まだ夕日も沈みきっていなくて空も明るかったから完全に油断してた」

 聞けば三人ともカミュよりひとつ高いGランクだと言う。そんな三人を一撃で気絶させてしまうのだから、相手はそこそこ強いのだろう。

 盗られたものは財布の中身だけ。荷物を荒らされた形跡はあったが、財布を探したのだろう。

「おふくろの形見の腕輪が入ってたけど盗られなくてよかったよ」

 冒険者の一人が安堵する。

(妙だな)

 カミュは少しだけ眉をひそめる。

 金目当ての犯行なら、貴金属も持って行ってもよさそうだ。子供のおもちゃではない限り、金属はそこそこの硬貨に換金できるだろう。足がつくのを懸念したのかもしれないが。

 薬草を塗り、骨折部位には添え木を当て、綺麗に包帯を巻きおえたカミュは三人に伝える。

「このまま少し安静にしてて。一時間くらいしたら綺麗に治ってると思う。回復魔法みたいに瞬間で治るわけじゃないから申し訳ないけどな」

「そんなことない。ここの町はいま回復師がいないから、カミュがいてくれるととても心強いよ、ありがとう」

 お礼を言われると悪い気はしない。

 三人の冒険者にはこのまま診察室にとどまるように伝えると、カミュは診察室をあとにする。扉の表に休診の札を掛けると、中にまだ怪我人がいることをギルドカウンターに伝え、ようやく宿屋へと帰路につくのだった。

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