第13話
「カミュ、おかえりー!」
宿屋に到着するとアイシャが駆け寄ってくる。三ヶ月も部屋を借りていると、もはや自宅も同然だ。看板娘のアイシャにももうすっかり懐かれてしまった。
「ああ、ただいま。四日ぶりにふかふかのベッドで眠れそうだよ」
カミュはすぐには部屋に戻らず、そのまま併設された酒場へと足を踏み入れる。部屋へ戻る前に夕食を済ませる算段だ。
近場のテーブル席につくと、アイシャが慣れた手つきでメニュー表を差し出してきた。
「診察室って寝心地悪そうだもんね。ハンナムさんは元気になったの?」
「いや、目を覚まさないからギルドの仮宿舎に移された。傷の方は完全に治ったはずなんだけどな」
「そっか……。早く目を覚ますといいね。ただでさえ、今この町は冒険者の数が少ないし」
「隣町で魔獣の
「そうらしいわね。
ため息をつくアイシャに日替わりディナーとエールを頼むと「ちょっと待っててね」と彼女は厨房の方へ消えていった。
それからすぐに二人分の食事を持って戻ってくる。
「今日はお客さん少ないから、私もこっちで食べていいって。カミュ、一緒に食べましょ」
「確かにいつもより人が少ないな。みんな隣町に行っているのか」
「ううん、冒険者狩りの影響よ」
本日の肉料理にフォークを差し入れながらアイシャがぼやく。
「聞けば犯人は酔っ払った低レベル冒険者を襲ってるっていうじゃない? それでみんなお酒飲みに来なくなっちゃって……。食事だけなら屋台に軽食屋、他にもいっぱいお店あるしね」
「ああ、そっちの方か。それが、さっき診察室から出る直前に怪我をした冒険者が来たんだけどさ、酔っ払ってなくても襲われるらしいぞ」
「そうなの⁈」
「しかもまだ日も沈んでいない時間帯だったらしい。冒険者の数も減ってきてるし、いよいよ見境がなくなってきたのかな」
「えー、怖いね。カミュも気をつけてね」
アイシャはそう言いながら「でも」と言葉を続ける。
「でも、なんで冒険者なんだろうね」
「……なんで?」
「だってお金が欲しいなら冒険者に限定しなくてもよくない? 私だって外を歩くときはいくらか現金を持っているし、冒険者さんたちよりも弱いわよ」
「確かになあ」
「効率や安全性を考えたら、普通の町民を狙った方が犯人にとってはリスクは少ないと思うの」
「もしかしたら話題になってないだけで、被害が出ている可能性もあるかもしれないね」
冒険者ギルドの診察室にいるカミュは、基本的に冒険者の治療しかしない。だから町民の状況までは把握できない。
生活魔法にも軽度の回復魔法はある。もしかしたら、軽い怪我で済んだからそっちで対応できて、事態が明るみになっていない一般人がいる可能性もある。
「少し調べてみるか」
「だったら私も手伝うよ! このままだと酒場もお客さん来ないし!」
「それはちょっと考えさせて。さすがに危ないから」
カミュは意気込むアイシャをなだめると、えーっと唇をとがらせる彼女を横目に手元のエールをぐいとあおった。
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