第14話

 酒場でお互いに近況報告をしていると、見知った顔が近づいてきた。

「カミュ、お疲れさん。長々と診察室に拘束してすまなかったな」

 見上げるとギルド長のロベルが立っている。彼もまたハンナムの件で一段落して飲みに来たのだろう。

 空いている席を勧めると、彼は「ふいー」と安堵の息を漏らしながら座った。

 アイシャがすかさずエールの入ったジョッキを持ってくる。さすが看板娘と呼ばれるだけはある。

 目の前に置かれたエールを一気に流し込むと、ロベルは口を開いた。

「とりあえずハンナムの傷が塞がってよかったぜ。あとは目を覚ますだけだ。うちの町の数少ない高ランク冒険者だから早く復帰して欲しいんだがな」

「ロベルさんもお疲れ様です。すみません、俺の力不足で」

 ハンナムが目を覚まさないことにカミュが謝ると、ロベルは首を横に振った。

「いやいや、お前はよくやってくれてるよ。回復師がいなくても傷を治せちまうんだもんなあ」

「ところで……ロベルさんはここへ飲みに来ただけです?」

 カミュが質問すると、ロベルは少しだけ神妙な顔をした。

「察しがいいな。カミュに聞きたいことがあったんだ。お前……ハンナムのパーティメンバーをどう思う」

「ハンナムさんの……ヤーコブさんとイザベラさんか」

 初日に診察室に飛び込んできた二人をカミュは思い浮かべる。

 ヤーコブはハンナムの容態をひどく心配していた。イザベラは面倒くさそうにしていたが、ヤーコブが先に診察室を出て行ったあとの彼女は誰よりもハンナムを心配していた顔だった。

 現に、ヤーコブが見舞いにきたのは初日だけだったが、イザベラは毎日朝夕と診察室を覗いていた。

 ロベルにどう伝えようか考えあぐねていると、カミュの回答を待たずにロベルは話し出す。

「実はハンナムを襲った犯人だが……パーティメンバーの仕業じゃないかって疑惑が上がっていてな」

「二人が?」

「なに、単純な話さ。ハンナムに大けがを負わせることができるほどの高ランク者が今この町にはいないんだ。みんな隣町にかり出されていてな。消去法でいくと同じランクの二人しか残らないってだけの話だ」

「でも、同じパーティの仲間にそんなことをするでしょうか」

「イザベラを巡った痴情の果ての事件じゃないかって話になってる」

「あー……」

 ロベルの言葉には納得せざるを得ない。

 イザベラの心配の仕方が、パーティメンバーというよりも恋人に向けられるそれに近かったように感じたのだ。それをヤーコブはあまりよく思っていないのかもしれない。それを分かっているから、彼女はヤーコブの前では悪態をつきつつ見えないところで素を見せた可能性もある。

「でもそうすると、ほかの冒険者狩りの理由がつかないのでは?」

 カミュが首をかしげると、ロベルは答える。

「ハンナムの件だけ犯人が別という可能性はもある」

「冒険者狩りを模倣したってことか」

 そういえば、とカミュは夕方に駆け込んできた冒険者たちを思い出した。

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